暗い 暗い 暗い 暗い 暗い 暗い 暗い 暗い 暗い 暗い 暗い 暗い 暗い 暗い 暗い 暗い 暗い 暗い 暗い

 それは、路地の隅で体を丸めていた。

 寒い 寒い 寒い 寒い 寒い 寒い 寒い 寒い 寒い 寒い 寒い 寒い 寒い 寒い 寒い 寒い 寒い 寒い 寒い

 ボロボロの服、雪のように白い肌、黒ぶちの眼鏡は塗装がはげ地金が見えている。

 血  が  欲  し  い

 そいつは、決して丈夫とは言えない体を持ち上げる。






アナザー・プレイス
〜吸血鬼になった者〜







 一瞬だった。そいつが獲物を捕らえ、路地裏へ運び込むまでの時間だ。
 獲物は、まだ若い女だ。セーラー服と、長い黒髪。顔はほとんど見えないが、恐怖で引きつっている様に感じた。
 気の強い女なのだろう、震える体を無理やり動かし、そいつ体を引っかく。彼女の手を覆うそいつの指に、彼女は噛み付く。
 痛覚が無いのだろうか。そんな事は無視して、そいつは女の頭を傾げさせる。白く、美しい首筋が黒い髪の間から顔を覗かせた。

 ごめん

 そいつは、女の首筋に噛み付いた。丹念に、優しく、愛しい女を愛撫するように、牙を突きたて、血をすすり、肌を舐める。

 おいしい おいしい おいしい おいしい おいしい おいしい

 その甘美な味と暖かさに、男は満足する。

 おいしい いい とても いい

 最初は抵抗していた女だが、次第におとなしくなる。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・・」
 女が、荒い息を吐く。彼女の体は次第に熱くなった。それでももがくように、ゆったりと体を振るわせる。
 そいつは、冷静に女の変化を見る。しかし、口は血を吸い続ける。
 そいつを吸血鬼にした弓塚さつきのように・・・・・・


 あれは十月下旬だっただろうか。もしかしたら十一月に入っていたかもしれない。
 吸血鬼になる前のそいつ、彼は行方不明になった友人を探していた。
 その頃、彼の町では連続殺人事件が起こっており、彼はその友人もそれに巻き込まれたのでは?、と心配したのだ。
 その事件はおかしなものだった。皆、血を抜かれて死んでいたのだ。マスコミは吸血鬼などと煽っていたと思う。
 彼はポケットにナイフを忍ばせ、誰も居ない夜の街を歩いていたのだ。
 それは偶然だったのだろう。彼は、その真犯人に出会ってしまったのだ。
 真犯人の名前は弓塚さつき、吸血鬼になってしまった少女だ。
 最初、噛まれそうになった時は、どうにか逃げだせたが、すぐに捕まってしまった。彼女は、ごめんね、と呟き彼の血を吸った。抱きしめていた彼女の体は冷たく、とても軽かった。学校の制服は土とホコリに汚れ、彼女は嬉しいはずなのに涙を流していた。
 その涙を見た時、その土とホコリまみれの服を見た時、彼の体から力が抜けた。彼女の背中につき立てようとしたナイフが、乾いた音を立てて地面に転がる。
 その時、その瞬間から、彼はそいつに変わった。
 しかし、それでもそいつは彼を残していたと思える。あの光景を見るまでは、確かに彼が残っていた。



 シエルはいつものように死徒を狩っていた。あの事件が終わって以来、彼女は夜のほとんどを死徒狩りに費やしている。
 遠野志貴、アルクェイド・ブリュンスタッド、この二人から見れば、もう終わった事件かもしれない。しかし、事件とは往々にして後始末の方が大変なものだ。この事件も、ありふれた事件と同じように、後始末が大変だった。
(おかしいですね。死徒の数が減っていないような、いえ、減るどころか増えている感じがします)
 また一匹、死徒を狩り終えたシエルは、今まで狩った死徒を計算する。一日、一日、丁寧に思い出して言ったシエルは、ふと、おかしなことに気づいた。狩る量が減っていないのだ。
 ここ数十日、シエルは、彼氏と彼氏を奪おうとするアーパーに悩まされながらであるが、確実に何十匹もの死徒を狩っていた。しかし、一向に減る気配がしないのだ。
「考えても仕方有りませんね。それより、メシアに行きましょう。今日は全品二割引ですから、いっぱい食べられますね〜」
 黒い修道服を翻し、鼻歌を歌いながら、シエルはその場を後にした。


 と  お  の  く  ん

 彼女は、薄汚い路地裏で、捨てられた子犬のようにうずくまっている。最初は、ゴミやヘドロなどの異臭に眉をしかめたが、今は気にならない。もう、鼻が慣れてしまったのだ。
 最初、彼女は自分で餌を探していたが、今ではそんな事はしない。自分の物が、勝手に力を、血の温かみを彼女に送り込んでくるのだ。

 と  お  の  く  ん

 少し前まで、毎日のように見ていられた顔を思い出す。黒ぶち眼鏡に、黒髪をした男子学生だ。
 崩れてゆく自分の中で、それだけが、自分と言うものを繋ぎとめる。

 と  お  の  く  ん

 さ  む  い  よ

 彼が助けてくれた時を思い出し、ただ、待った。彼がまた来てくれる事を祈って。


「ふぅ、お腹いっぱいです」
 満足そうにお腹をさすりながら、シエルはメシアから出てくる。見ようによっては、黒にも見えるほど、濃い蒼色の修道服はそのままで、大通りをゆっくりと歩いた。
 時々、路地の奥に鋭い目線を走らせては、表情を緩め、また路地の奥を睨む。そんなことを繰り返しながら、ゆっくり、自分のアパートへ向かい歩いて行った。
 今日はこのまま帰って、あしたのアーパー戦に備えられるか、と考えていたシエルの鼓膜に、かすかな悲鳴と、何か物が壊れる音がした。方向は路地裏からだ。
「仕方ありませんね」
 そう呟くと、シエルは悲鳴のする方へ駆け出した。


 運が悪かった。その一言に尽きる。
 弓塚さつきの前に浮浪者が現れた事も、弓塚さつきが久々の狩りでヘマをした事も、思ったより食事に時間がかかった事も、すべて運が悪かった。もしくは間が悪かった。そんな言葉で慰められる事だった。
 紅いペンキを塗りたくられたような壁、生暖かい粘性のある水たまり、ぼろぼろこぼれおちた食べこぼし。
 弓塚さつきは、闇と紅と死の糸しか見えない世界で、手についた血を舐め取っていた。生臭い水たまりに腰を下ろし、極上のスープを飲む様に、丁寧に、丹念に、それこそ少しの食べ残しもしないように、舐めとる。
 シエルは、うずくまって血を舐めとる弓塚さつきに狙いを定め、黒剣を構えた。
 遅かった、と言う後悔は無い。ただ、狩り取ると言う、単純で理由も要らない結果のために、体が勝手に動き出す。
 背をそらせ、狙いを定めたシエルは、指挟んだ黒鍵を投げるために腕を振り下ろす。

 と  お  の  く  ん

 物悲しい音に、聞きなれた言葉に、シエルの手元は狂う。
 黒剣は、狙いをはずれアスファルトに激突した。甲高い、耳障りな振動があたりに伝わる。
 弓塚さつきは、慌てて立ち上がると、獣のように辺りを鋭く見渡す。
 シエルは打ちたくなる舌打ちを我慢し、もう一度、黒鍵を投げつけた。
 弓塚さつきは、右へ大きく跳ぶことでそれを避ける。そのまま、黒鍵が投げられた方へ、移動した。
 一回の跳躍で助走もなく、五、六メートル跳び、一瞬で、七、八メートルほどを移動するそれを、シエルは死徒と決める。
 それまでは、ただの異常な人間、と言う可能性も捨て切れなかったシエルだが、この動きでそれは無いと確信した。
 それからは早かった。迷いの無い構えで、黒鍵を投げる。その速度も正確さも、先ほどの比ではない。
 弓塚さつきは避けようと左へ飛ぶが、避けきれず右足に黒鍵が刺さった。そのまま、アスファルトの上を転がる。
 シエルは、弓塚さつきが起き上がるタイミングを見計らい、黒鍵を投げた。



 弓塚さつきはもういない。彼女は死んでしまった。無数の剣で、壁に貼り付けられ、死んでいた。
 傷痕から匂う肉と血が焼ける匂いを、そいつは今でも覚えている。
 そいつは、何が起きたか分からなかった。ただいえる事は、彼女は死んでしまったと言う事だ。
 それ以来、彼はそこを食卓としながら、慎重に、慎重に食事をしていた。


 今日も、そいつは獲物を見定めようと、暗い路地から明るい商店街を見ていた。
 時刻は七時を少し過ぎた頃、商店街にはいろんな種類の餌が歩いていた。
 中年の男
 初老の女
 小さな、まだ小学生にもなっていないような少年
 大きなおなかをした妊婦
 ・
 ・
 ・
 ・

 こ  い  つ  だ

 そいつはスーツを着た女に狙いを定める。闇の中の所為で蒼く見えた髪が印象的な女だ。獲物をゆっくりと観察した。どうやら一人のようだ。足も速いほうではない。
 屋根の上によじ登り、女の後追う。

 ハァ  ハァ  ハァ  ハァ  ハァ  ハァ  ハァ

 そいつの口から唾液がたれる。ゆっくりと、糸を引いて屋根に落ちた。それが始まりだった。
 いきなり、そいつの体が真後ろに吹き飛んだ。左腕がちぎれる。

 ?  ?  ?  ?  ?  ?  ?  ?  ?  ?  ?  ?  ?  ?

 そいつは呆然と、左腕の付け根を見た。
 筋肉の筋がぷらぷらと風で揺れていた。血が多量に出ている。
 後ろを見ると、黒く細い剣が突き刺さった左腕が見えた。
 そいつは弓塚さつきを思い出す。

 危険  危険  危険  危険  危険  危険  危険  危険  危険

 そいつは逃げた。全力で、その場から立ち去ろうとする。しかし、片腕が無い事と気が動転していた所為で、軽くよろけた。
 右肩にもの凄い衝撃が走る。そいつは、転げるように屋根の上から落ちた。

 ?  ?  ?  ?  ?  ?  ?  ?  ?  ?  ?  ?  ?  ?

 頭から地面に落ちる。一瞬、意識が消えた。
 そいつは立ち上がろうとして、両腕が無い事に気づく。右腕は、建物の壁に突き刺さっていた。

 危険  危険  危険  危険  危険  危険  危険  危険  危険

 腹筋と壁を使い無理やり立ち上がると、そいつは裏路地を迷走する。

 寒い  痛い  危険  寒い  痛い  寒い  危険  痛い  寒い  危険  寒い  痛い  危険  寒い  寒い

 傷の事など無視して、走る。周囲の壁に、赤い線が無数に生まれるが、それもすぐに切れてゆく。

 寒い  寒い  寒い  寒い  寒い  寒い  寒い  寒い  寒い  寒い

 そいつの目の前に、一人の少年が現れた。

 獲物  獲物  獲物  獲物  獲物  獲物  獲物  獲物  獲物  獲物

 理性も、感情も、ない。彼の欠片も無い、そいつは限界まで上あごと下あごを開いたそいつは、少年めがけて駆けた。

 血  血  血  血  血  血  血  血  血  血  血  血  血

 少年は黒ぶちの眼鏡を外した。

 紅い  紅い  紅い  紅い  紅い  紅い  紅い  紅い  紅い  紅い

 少年の右手の平に、仕込みナイフが現れた。

 暖かい  暖かい  暖かい  暖かい  暖かい  暖かい  暖かい  暖かい

 少年は蒼い瞳で、そいつを睨む。

 食べたい  食べたい  食べたい  食べたい  食べたい  食べたい

 そいつの両足が殺された。そして、少年のナイフが両足を通る。

 危険  危険  危険  危険  危険  危険  危険  危険

 更に逃げようとするそいつは、背中に衝撃を感じ、動かなくなった。壁に突き立てられた体は、下半身から順に灰に変わる。暫らくすると跡形もなく消え去った。
「遠野くん、何で深夜に出歩いてるんですか!、駄目ですよ。危険じゃないですか!!!」
 そいつを突き刺した剣を数本、指に挟んだまま、修道服を着た女が少年に詰め寄る。
 少年、遠野志貴、は困ったような顔で女と向き合う。
 二人はそのまま、何かを言い合いながら、ネオンの中へと消えていった。
 土とホコリにまみれた学生服が、風に揺られながらゆったりと、灰に変わった。









後書き
AAA:どうも、読んでいただきありがとうございます。
アレ:AAAと書いてみえと読ませるひねくれものの所為で、出番が著しく少ないアレだ。
AAA:今回、最初のコンセプトが守れたかどうか、それが心配です。
アレ:コンセプトと言うと、さつきモノで、ダークシリアスだったか?
AAA:YES YES YES
アレ:それはどうでも良い。コンセプトは、かなり微妙なラインで失敗していると思うぞ。
AAA:やっぱり、そうか。
アレ;どう見ても、主人公は名前もない死徒一号の殻弟 殻徒くん(仮名)だからな。
AAA:勝手に名前付けんな。しかも、センスない。
アレ:んな事はどうでもいい事だ。それより、今回は、結構難産だったらしいな。
AAA:YES YES YES YES YES
アレ:ジョジョネタはもういい。さっさと答えろや。
AAA:どんどん口が悪くなるなぁ。まぁ、今回は難産でした。初めて、こんなものを書きたいと言う雰囲気から入ったから、勝手が違って結構大変でした。
アレ:それだけじゃないだろうが、さっさと言う事言え。
AAA:アルクェイドって難しいね。ラブコメって難しいね。でも、ミジンコさんも生きているんだ。友達なんだ。
アレ:意訳すると【アルクェイドというキャラが書きづらすぎて挫折し、ラブコメが入る場面でラブコメが書けず挫折した。そんな根性無しの友達は、生きている以外とくに共通点もなさそうな、ミジンコ】という事か。
AAA:NO NO NO NO NO NO NO
アレ:だからジョジョネタはもういいちゅーねん。
AAA:大半あってるけど、最後違う。
アレ:それじゃあ、問題ないな。
AAA:大有りだ。
アレ:そんな駄目人間道に入ろうとしている駄目息子ですが、どうか見捨てないでください。
AAA:息子も違う。勘違いされたらどうする。皆さん、アレと私に一切の血縁関係は有りません。誤解がないようお願いします。では・・・・・・


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