遠野家の人々1 恋愛遺伝学休講
「兄さん!いままで騙していてすいません!でも、わたしは兄さんの妹ではないんです!」
悲痛な叫び。
秋葉につらい思いをさせてしまった自分が嫌になる。
「…すまない秋葉」
「そんな、兄さんが謝る必要なんてありません!悪いのはわたしなんですから」
「…いや、知っていたんだ。秋葉が俺の妹ではないことなんて知っていたのに」
「え……?兄さん、知ってらしたんですか?」
「ああ、俺がもっと早く言っていれば、秋葉がつらい思いをして事実を隠さずにすんだのに……俺は兄貴失格だな」
「そんな!そんなこと言わないで下さい!たとえ血がつながって無くても、わたしの兄さんは兄さんだけです!」
「当たり前だ!」
「……兄さん……」
だってそうだろ?たとえ妹ではなくても……
「お前が『妹』でなくて『弟』でも、俺がお前の兄であることには変わりが無いだろ」
「…………え?」
いったいなぜ、秋葉が『女のフリ』をしていたかは分からない。
ただ恐らくは「遠野家のシキタリ」やらなにやらの深い訳があったのだろう。
「本当にすまなかったな秋葉。四六時中女のフリをしているのはつらかっただろう?これからは本来の『男としての秋葉』
として生きていこうな。もう親父もいないんだ。遠野家の決まりなんかに縛られる必要は無い。親戚の連中が何か言って
きたら俺が追い払ってやる。大丈夫、俺が付いていてやるよ。なんたって俺達は二人だけの『兄弟』だからな」
「……に、兄さん…?」
秋葉の声が震えている……よほど嬉しかったんだな。
こんなことなら本当に、もっと早く言ってやればよかった。
「ただなあ秋葉、『ソレ』で騙していたつもりだったなんて、まだまだお前も子供だなあ。恥ずかしいかもしれないが、
女のフリをするならせめて『パット』くらい入れろよ」
場を和ませるために軽口を叩き、秋葉の胸をこぶしで小突く。
――――コン
とアバラ骨の軽やかな音が響く。
うーん、秋葉の奴、いくら女のフリをしていたからとはいえ、もう少し『胸筋』を付けた方がいいんじゃないか?
「…に、兄さん、あのですね?」
「ん?どうしたんだ秋葉?遠慮なんかせずにはっきり言いな」
見れば心なしか秋葉の髪の毛は赤い。
それに蠢いているような気がするのは気のせいだろうか?
まあ、あれだろう。
ノベルゲームの感動シーンで、『突然夕日が差し込んだり』、『突然風が吹いてスカートや髪の毛が舞う』のと同じ
現象だろう。
うーん、こういうことって現実世界でも起こり得るんだな。
秋葉が顔をあげる。
その顔は笑っている。
……ただ、唇の端が痙攣しているし、おでこには青筋が立っている。
―――あ、握ったこぶしから血の筋が…そんなに強く握り締めるから。
……秋葉サン、もしかして怒っていらっしゃる?
「に、兄さん?…わたしは兄さんの『弟』などではありませんよ」
「―――え?」
―――しまった!それで怒っていたのか!
「すいません、気づきませんでした!秋葉が俺の『兄さん』だったんですね」
―――――プチッ!
「こぉぉぉぉぉの、クサレドチクショーが!!」
―――ズドォォォォォォォォン!!
―了―