「弓、塚………」
ナイフが動く。
……彼女の胸にある『点』。
自分を信じきって、最後の救いにすがっている彼女の心臓近くにある黒い点。
……そこに、ナイフは深々と突き刺さった。
「…志貴、くん?」
「…ごめん。俺は…」
瞳が熱い。
頭が割れるように痛い。
膝がワラい感覚が消えていく。
脳の奥がぼやけて視界がぼやけて目の前の少女しか見えない。
「きっとこれが一番いい方法だったんだよね。」
---だから、泣かないで遠野くん。あなたは正しい事をしてくれたんだから
「でも、うれしかったよ。ほんの少しの間だったけど、遠野くんは、わたしを選んでくれたんだもん。」
---うん、これならこのまま死んじゃっても悪くないかな
「あれだけいっぱいあった痛みもないし、こわい気持ちも魔法みたいに消えちゃったし………」
---もう志貴くんの顔も見えないや
「弓…塚……っ!」
---そろそろお別れだね
「ばいばい志貴くん。ありがとう……それと、ごめん…ね……」
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---まだ死にたくない
---志貴くんが…そばにいてくれるのに
---私は…まだ…死にたく無いんだ……
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…………
---………なんだろう
---……暖かい
---…志貴くんに包まれているような感覚
---まだ…生きているんだ…
---目を開けると、そこには世界で一番好きなヒトの顔があった
SATSUKI If〜
「おはよう…。弓塚さん」
満面の笑みを浮かべてその人は私に囁いた。
変だよね…夜なのにおはようだなんて。でも間違いじゃないよね…私はこうして目覚める事ができたんだから。
「おはよう…。志貴くん…えっと、これって夢じゃないんだよね?」
こんなにも幸せな気持ちになったこと無かったから不安に思うんだ…。
私っていつも中途半端な幸せしか貰えなかったから
---文字どおり夢じゃないのかなって…。
すると、志貴くんはだんだん笑顔がぎこちなくなってきて…私にこう言ってくれたんだ。
「…夢にしておくのは勿体無いよ…だって、弓塚さんが目覚めてくれたんだから」
志貴くんはそう言い終わると、どんどん笑顔じゃなくなっていく。
---泣いているんだ
「泣いちゃ駄目だよ志貴くん…せっかく目が覚めた時に志貴くんの顔が見れたんだから、
笑顔でいて欲しいな…」
---そう、いつもの笑顔が見たいよ
「ごめん…でもこれは嬉し涙なんだ。今回だけは許してくれないか…な?」
---志貴くんは私のために泣いてくれたんだ
「ホントに今日だけだよ。次からはちゃんと笑顔で起こしてくれないと嫌だからね…」
私が冗談交じりに言うと、志貴くんの涙が頬を伝い私の顔に落ちた。
---あったかい
「涙ってこんなにもあったかかったんだね…」
---知らなかった
「昨日まで涙なんか氷みたいに冷たく感じたのに」
---ほんとうに
「夢じゃ無いんだね…」
---生きてるんだ
「ありがとう…志貴くん」
---助けてくれたんだ
私は呼吸をするかのように自然にその言葉が出たんだ。
感謝してもし切れない…けど、言わなくちゃいけない言葉が。
ここは公園…。普段なら仲睦まじいカップルや、青春を謳歌する若者たちがいるんだろうけど
…今は私と志貴くんだけの公園。
---貸し切りなんて…ちょっと贅沢な気分
私は噴水の回りを囲むように点在するベンチの上で志貴くんに膝枕してもらっている。
本当は逆なんだろうけど、志貴くんが『もう少しだけこのままの方が良いよ』って言ってくれたから…おとなしく甘えている。
志貴くんの太ももって余分なものが付いてないから引き締まってるけど硬くも無くて、なんだか女の子みたい。
---気持ち良いなぁ〜また今度お願いしてみようかな
まだ頭はハッキリとしてないフワフワって感じがするけど、こうしているだけでなんだか少しまともになってきた気がする。
---不思議だね…あなたにこうしてもらっているだけで、さっきまでの事が悪い夢だったみたいに思える
目の前には大好きな志貴くんが私を覗き込むように見つめていた。
---えっと…なんだか恥ずかしいな…何か話しした方が良いよね
「ねえ…志貴くん…」
私は何も考えないまま、取り敢えず呼びかけてみる。
「…なに?」
志貴くんはさっきの会話を覚えていてくれるのか笑顔で答えてくれた。
---何か話題、話題は…
「さっきまで気付かなかったんだけど、今夜のお月様って綺麗な三日月だったんだね」
あまり気の利いた話題ではなかったけど志貴くんは私と同じように月を見てからこう呟いたんだ。
「ああ、そうだね……そうか!それで…」
志貴くんは突然何かを考え出したかと思うと再び私に微笑みかける。
「今夜が三日月だったから…弓塚さんは助かったのかも知れないね」
---?
どういう意味?って私は目で問い掛けると志貴くんは…。
「ほら、吸血鬼の力って…月の光の強さと関係してるでしょ?だからあの時、『線』がハッキリ見えたんだよ」
---?『線』??
志貴くんは、しまったという表情をしたけど慎重に言葉を選ぶように話し出した。
「えっと、俺の『目』の事は弓塚さんも知らないんだよね…じゃあ順番に説明していくよ」
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---知らなかった
志貴くんがそんな不思議な事ができるなんて。
ずっと志貴くんだけを見てきたのに…。
---他の人とはどこか違うとは思っていたけどね
ある程度かいつまんだ話しだっけど、色々と分かったことがあった。
まず、目に見える『モノ』の『存在』を殺すことができる事。
次に、少年の時に出会った『先生』の事。
最後に…私を救ってくれた方法。
---そっか…
志貴くんの話しを聞き終わった私は、涙が止まらなかった。
だって、『吸血鬼の呪縛』なんてトンデモナイものを殺したんだから…
志貴くんの頭への負担は、私の吸血衝動よりも…もっと耐えがたいものだったんだろう。
そう思うともっと涙が溢れてくる。
---ごめんなさい志貴くん…
「…ごめんなさい」
涙で志貴くんの顔が見えない…声は擦れてしまっていた…。
「…良いんだよ、もう終ったんだ」
志貴くんは泣きじゃくる私の頭をなでてくれた。
「もう苦しまなくても良いんだよ…」
私が泣く声を我慢できたのは志貴くんのその言葉を聞くまでだった。
気が付くと私は志貴くんに抱きついたまま大きな声で泣いていた…。
志貴くんは私が少しでも落ち着くように頭をなでたり強く抱き止めていてくれたりしたが…。
---今の私には…どれも逆効果だよ
---もっと抱き締めて
---壊れるぐらいに
---むしろ…壊して欲しい
「ごめんね志貴くん…服、汚しちゃって」
あれからどれだけの時間、私が泣いていたのかは分からないけど…志貴くんの左肩は私の涙で濡れてしまっている。
「気にしないで良いよ、もう少しすれば乾くと思うし」
あはは…と笑いながら笑顔で答えてくれた。
「…それよりも…ちょっとゴメンすぐ戻るから」
そう言うと志貴くんは立ち上がり水呑場のほうに翔けて行った。
---?
どうしたんだろう。
私はベンチに座りなおし、気分を落ち着かせようとなんとなく月を見上げる。
アラビアの剣みたいに綺麗な三日月。
どうして今まで気付かなかったんだろう…こんなにも月は綺麗だったのに。
きっと、今までの自分に余裕が無かったんだね。
もちろんこの瞬間も余裕なんて無いし、色んな事が有り過ぎて頭の中は混乱気味なんだけど。
そんな時だからこそ月を見て心の中を整理するのも良いかも知れない。
---今までの自分を捨てて…生まれ変わった私で居る為に
数分もしないうちに志貴くんは帰ってきた。
多分、お手洗いにでも行っていたんだろうけど…。
「おまたせ、ちょっとこっち向いていてくれるかな…」
突然そう言われて少し戸惑ったが私は素直に志貴くんの方を向いた。
「どうしたの?」
志貴くんは何も答えず私の前にゆっくりと跪いた…。
---えっ…
ベンチに座っている私とほぼ同じ目線になった志貴くんは私の方をじっと見ている。
---まさか…
「目を閉じて…動かないでね」
---…キ…ス…してくれるの?
…と言いながら志貴くんは私の顎に手を添えた。
---ホントに?夢じゃないんだよね
私は静かに目を閉じて志貴くんが来てくれるのを待つ。
心臓が破裂しそうなくらいドキドキしてる…。
---ああ…やっと志貴くんと…
冷っとした感覚…。
---ひやっ?…え?
私の期待と裏腹に、頬に触れたのは…。
---ハンカチ?濡れてる…
「あっ…目を開けちゃダメだよ、すぐ終るから」
目の前には笑顔の志貴くんの顔があったんだけど…。
---がっかり…
「…志貴くん…何してくれてるのかな…?」
私はなるべく平静を装って私の顔を拭いてくれている志貴くんに尋ねる。
「ん?顔を拭いているんだけど」
---そうじゃなくって
「どうして?何か付いて…」
言いかけて私は、ハッとした。
---さっきまで私、泣いてたから…
「し、志貴くん!もういいから。自分でできるからっ…」
---もう恥ずかしすぎるっ!
私は「イヤイヤ」って首を振って意思表示をするが…。
「恥ずかしいかも知れないけど、俺にさせて欲しいんだ」
…なんて真面目な表情の志貴くんにお願いされたら…
---「嫌」って言えないじゃない
乾いた涙の跡を人に拭いてもらうなんて何年ぶりだろう…。
私がずっと小さかった頃、お母さんにしてもらって以来かな。
恥ずかしいよね…高校生にもなってこんなことしてもらうだなんて。
---しかも、志貴くんに…
「はい、いつもどおり綺麗な顔になったよ」
「…うん…ありがとう…」
どこか満足げな志貴くんと、恥ずかしさで志貴くんの顔を真っ直ぐ見れなくて呟きにしかならない私。
回りから見れば、なんとも滑稽な二人に見えるだろう…。
---真顔で「綺麗」なんて言ってくれるし
恥ずかしくって黙りこんでしまう…。
---さっきもこんな事があったような?
「…けど、どうして私の顔なんて拭く気になったのかな?」
さっき志貴くんにあんな真剣な顔でお願いされなかったら多分拒否していただろうから…至極当然の疑問だと思う。
---すっ〜ごく恥ずかしかったんだからね
「…怒らないで聞いてね?…実は、特に理由なんて無いんだ。だだ、なんとなく涙の跡なんて残さない方が良いなって思って…」
志貴くんは本当に自分でも解らないみたいに言葉を探しながら私に話してくれた。
---無意識の優しさか…志貴くんらしいな
「ふ〜ん。…ありがとう…私、志貴くんのそんなところ好きなんだ…。」
---いつもみんなの事を気にしてくれて…
---どんな事があっても…私を助けてくれる…
---ちょっと鈍感な所もあるけど…
---いつだって一番してほしい事を叶えてくれた…
---私は…志貴くんが好き…
「…すき…なんだよ…」
いつの間にか私はそんなことを呟いていた。
止まっていた涙がまた溢れてくる…。
---こんな私でも…そばにいさせてくれますか?
---志貴くんを自分の物にしようとした私でも…?
---この気持ち、消さなくてもいいですか?
「俺も…解ったんだ。一番、傍にいて守ってあげなくちゃいけないのが…誰なのか。」
そう言って志貴くんは私を抱き締めてくれた。
「過ぎた時間は戻らない…、流れた涙は瞳には戻らない…
けど、泣き止むまで傍にいて…少しでも悲しい事を忘れられるように涙の跡を拭いてあげたいんだ…
だから、こんな俺でも…傍にいさせてくれないかな?」
---ゆめじゃないんだよね?
「………嬉しい…」
「え?」
「…嬉しいよ…もう、いつ死んでもいいぐらい」
「弓塚さん…」
「私は…志貴くんが好き…だから、ずっと傍にいさせてください…」
「うん、これからは…ずっと一緒にいるよ」
「約束、だよ…」
「二人だけの…だね」
それから…私達は、お互いの存在を確かめるように抱き締めあった
強く…とても強く
蒼天には三日月が輝き
なお高みを望む星々の下で。
あとがき
どうも、初めまして仁あにぃと申します。
読んでいただきありがとうございます。
水夢氏の書かれたSSを読んで、衝動的に書きなぐったこの駄文、ご好意により初投稿させてもらいました。
妄想全壊(笑)で挑んだのですが…ただ甘いだけの話になってしまったかも知れません。
本編重視の方にはお怒りの方もいるかもしれませんが、if(イフ)という事で許してやって下さい。
SS書くのって、楽しいですけど凄く難しいですね。