「………ちぃっ!?」

左手に構えた『金剛不壊之盾(ダイアモンド・ウォール・シールド)』の表面を、白く削り取られた跡が残る。

「………一体、何で出来ているのだ? この生き物は?」

眼前にある ―― 『居る』と表現するよりも『ある』と表現すべきだと感じた ―― その『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』に、注意深く対峙した。

右手に持っている『スノウマン』のカスタムメイドの大型拳銃『遥かな咆哮(Howl from Beyond)』すらも、この生き物相手には、気休め程度の役にしか立っていない。

左手の『金剛不壊之盾』は、文字通りダイアモンドで出来ている。

それを削る、となれば………

「………ダイアモンド並の硬度を持つ、と、言うことか………」

冷や汗が流れる。

眼前の奇妙な生き物 ―― 丸まっちい身体から申し訳程度に生えているヒレのような手足 ―― の姿からは、到底想像も出来ない『戦闘能力』。

ヒトならざる姿 ―― 故の不可思議なる戦闘行動 ―― に、何とか対処出来ているのも、この店から赴いたそれぞれの『世界』で、ヒトならざるモノと相対し、撃破して来た実績ゆえか。





LOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOLIIIIIIIIIIIIIIIIYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!!!!!!





「……………………………………………………!?」

その生き物は周囲を ―― 周囲の空間ごと ―― 振動させる咆哮を発し………

「しまった!?」

私の足下を擦り抜けて、店の奥へと走り去った。















[MOON TIME]異聞録


《Close Encounters》















Written by “Lost-Way"















「……………………………………………………オーナーたちの不在時に、こんな事になるなど………」

『バーテンダー』は、あまり変えない表情に苦みを走らせていた。

「状況は?」

「凶悪、ですね。時空間隔離領域が、通常空間に戻りつつあります」

「……………………………………………………」





時間の流れすらも停止させ、空間丸ごと切り離して隔離した『絶対封鎖区画』。

それが通常空間に戻る、ということは ――





「………封印されていた『何か』が、再び解放される………」

「………ですね。『絶対封鎖区画』は、『六礎』が総掛かりで封印した物ばかり。一体、どんな厄災が目覚めるか………」





と ――





「………『何か』が、空間隔壁を突破して侵入しました!」

「なに!?」

通常、この店に入るには、それぞれの扉から入ることになる。

いかなる転移の技を使っても、『六礎』の施した『結界』ゆえに、『扉を開けて入店する』事になってしまう。





しかし ――





「………閉鎖区画に、直接、だと?」

「はい」

「何者だ、あれは?」















「……………………………………………………で」

「要となる地点の確保、だそうだ」

「それで、ここに?」

『ミレニアム』の三人 ―― 『パーペチュアル』、『ブラックドッグ』、『セヴンスヘヴン』 ―― は、フル装備に近い姿で広い通路上に待機していた。

『仟歳期之太刀(ミレニアム・ブレード)』を手に携え、いつでも抜刀出来る状態だ。

「この後ろは、『絶対封鎖区画』だったな、確か」

「『最後の砦(ラスト・フォートレス)、って訳ですか。責任重大ですねぇ」

『セヴンスヘヴン』の呟きに、のんびりと返す『パーペチュアル』。

「それにしても、三人で戦うなんて、久しぶりだな」

『ブラックドッグ』が、装備を確かめながら言う。

「最後の作戦は、『ツァリーヌ』さんの世界で暴れたのが最後じゃなかったっけ?」

「………『朱い月』さんも一緒でしたね」

「面白い人だったなー」

「あっはっは」

それぞれ、各々の世界を一緒に旅した記憶が蘇る。

「今度は、何なんだろうな?」

「『侵入者』って話だ」

「……………………………………………………凄いな」

「全くだ」

三人、顔を見合わせて嘆息する。





この店のセキュリティ ―― 『神』や『魔』を相手にする事もある ―― の確かさを知っている三人は、出現する『何か』を待った。















「………レーダーに感有り」

『ブラックドッグ』が、長銃身の大口径狙撃機銃をセットしながら呟いた。

「接敵まで、推定60秒」

「………近いな」

一番前の右側に『セヴンスヘヴン』、二番目の左側に『パーペチュアル』、最後尾中央に『ブラックドッグ』と言う布陣で、通路に並ぶ。

『唯一絶対(The One)』となった『パーペチュアル』や、『半位構成(The Harf)』たる『セヴンスヘヴン』とは違って、『ブラックドッグ』は12分の1。

素体として持っている『力』そのものが違うので、どうしても後衛になってしまう。

彼の躰が半分無く、機械仕掛けのサイボーグ・ボディであることもその要因として挙げられるのだろうが。





「………呼んどくか?」

「出て来てからの方がいいだろう?」

「そっか」

『仟歳期之太刀』のことだ。

彼らは『仟歳期之太刀』を自らのパートナーとして考えているため ―― そもそも『異世界』の『神に等しい存在』を『武器』の形に変えているのだ ―― 扱い方が『友人』のそれになる。





と ――





「通路上に感有り」

「有視界認識」

通路の彼方から、こちらに向けて一直線に向かって来る ―― 『奇妙な動物(Strange Animal)』

「………『奇妙な動物』が現れた!」

「『Flack』じゃねぇって」

そう言いながら、照準を合わせる『ブラックドッグ』。

「止まれ! 止まらんと撃つぞ!?」





轟音! 轟音! 轟音! 轟音! 轟音! 轟音! 轟音! 轟音!





「いきなり何するロリか!?」

「警告しただろうが! 止まらん方が悪いわ!」

人語を発する『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』に、そのままの勢いで怒鳴る『ブラックドッグ』。

「邪魔するロリか!? 邪魔するロリな!? 押し通るロリよ!!」

『何か』に憑かれたような血走った目で突っ込んで来る『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』を、『ミレニアム』三兄弟は迎え撃った。





「「『仟歳期之太刀(ミレニアム・ブレード)』!!」」

「「「応!!」」」

『セヴンスヘヴン』と『パーペチュアル』が抜刀し、『仟歳期之太刀(ミレニアム・ブレード)』が応える。

「『世界竜(ウロボロス)』!!」

「お呼びか、我が主よ」

『パーペチュアル』が、破斬剣(バスタードソード)サイズの『太刀』を引き抜き、呼びかけると、そのまま返事が返る。

「『無限領域(インフィニティ)』!!」

「承知!!」





ぎぃんっ

空間が閉塞し、同時に『世界竜の輪(ウロボロス・リング)』が形成される。





「メビウスの輪………果無(はてなし)の通路か………」

「くらっ! ウカツに発砲出来なくなったじゃねぇかっ!?」

『セヴンスヘヴン』の呟きに、『ブラックドッグ』が怒鳴る。





通路の向こう側は背中側に通じている。撃った銃弾は、命中しない限り、射撃方向の逆側 ―― ループ画面の右左のように ―― 背中側から飛んで来るのだ。





「お前も『ティア』呼びゃいいだろうが」

ずんばらりん、と、打刀と脇差を抜き放つ『セヴンスヘヴン』。

「………『ニッズヘッグ』」

「委細承知!」

「………『フレスヴェルク』」

「こちらに」

「………壁と阻め」

「「心得た!」」

元より防禦からの反撃を主体とする『剣術』を身につけている『セヴンスヘヴン』だ。

『護りながら戦う』のは得意とするところ。

「最終防衛ライン………阻むぜ!?」

「「応!」」

ぎぃんっ、と、『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』の右手(ヒレ)を『フレスヴェルク』で受け止め、そのまま流れるように『ニッズヘッグ』で切り込むが、左手(ヒレ)で阻まれる。

「もらったあ!」

『パーペチュアル』が『セヴンスヘヴン』の陰から斬りかかるも………





「………!?」

瞬間的に発生した『空間振動』によって二人と一体は、弾き飛ばされる。





「「………仁(ジン)!?」」

二人と一体の間に発生した『空間振動』。

それを発生させられる心当たりは『ブラックドッグ』にしかない。

何のために弾き飛ばしたのか!? と、理由を問う。

「あれを見ろ!」

二人が『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』を見ると、

「………何だってんだよ、あの青い『光』は………?」





『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』のヒレから、青く光る『刃(ブレード)』のようなものが伸びていた。





「『空間断層』だ」

「「………『空間断層』だぁ!?」」

『時空間制禦能力(クロノ・キネシス)』を有する『ブラックドッグ』ならではの感覚と言えよう。

「そのまま打ち合えば………」

「如何に『仟歳期之太刀』とは言え………斬り飛ばされるのは必至だ。タダでさえ閉鎖した空間を更にループ閉鎖かけてる所に空間断層で切り裂かれてみろ。空間接続がイカレて時震に呑まれて『終滅(ついめつ)』喰らいかねない」

狙撃機銃を通路の横に押しやって、背中から野太刀程もある長大な日本刀をずらり、と抜き放つ。

「『ティアマット』」

「はいな」

女性的な声が返る。

「………“力”、貸してくれ」

「はいな」

今度の返事は嬉しそうだ。

「二人とも、アタックを頼む。空間振動でガードするから」

「巻き込むなよ?」

「巻き込まれるような動きをするなよ?」

にやり、と、笑い合い、





「「「Shake Down!!」」」





『セヴンスヘヴン』と『パーペチュアル』は、左右から斬りかかった。

左右のヒレ(+空間断層)で迎撃する『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』だが、空間断層そのものを『ブラックドッグ』の『時空間制禦能力(クロノ・キネシス)』で中和。





―― しかし ――





「引け!?」

「「!!」」

『ブラックドッグ』の言葉に、即座にバックステップを連続させて『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』から離れる『パーペチュアル』と『セヴンスヘヴン』。

そのまま『ブラックドッグ』の展開した『亜空間結界』の中に飛び込むと………





轟音!





周囲の空間を引き裂いて、二条の『空間断裂』が走る。

「……………………………………………………中和は?」

「あれを中和しろってか?」

「「「……………………………………………………………………………………………………」」」

引き攣った顔を合わせる三人。





十文字斬り ―― バツの字斬り ―― に周囲を切り裂いた、ヒレから伸びる、光のブレード。





「 ―― っつーか、出鱈目過ぎるぞ。一体、どこの世界領域の『神』だ!?」

「………あんなのを『神』だと思いたかねーな」

「『存在力』だけで見りゃ、十分過ぎるくらいに『主神』やれてるぞ」

「……………………………………………………洒落にならんな」

「まったく」

「時間稼ぎも出来やしねぇ」

そう言って、『ブラックドッグ』は腰の後ろから手榴弾を二つばかり引き抜くと、『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』に向かって放り投げる。





すぽむ

通路上にもくもくと煙幕が立ち込める。





「 ―― 知り得ないほどの『遠く』では
離れ離れの奇妙な『生命』は
何万度の『火』となり
忘れられた『民たち』は集い
『炎』を掲げて迎える
万象の『風』の到来 ―― 」





『ブラックドッグ』が《呪文》を呟き、《呪紋》を展開させる。

左腕の義手に仕込んだ『経紋車(マニ)』が回転し、呪力を共鳴・増幅させる。





「 ―― なにもかもが消え
なにもかもが来る ―― 」





………ぐちょりぎちゃりごちゅり………

空間がイビツな音を立てる。





「………『万象の奇夜』………」

『パーペチュアル』が、呟く。

「流石に………本気(マヂ)だな」

『セヴンスヘヴン』が応じる。

周囲に『魔力元素(マナ)』が満ち溢れる。

閉塞された世界に、泉から汲み出すが如く『力』が満たされる。

「……………………………………………………!?」

ゆらゆらと揺らめき、安定を欠いてゆく『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』のヒレの光の刃。





「 ―― 瞬きの『間』にも吹き上げる
風に舞い飛ぶ生命の『巧』に
黄金の『疑似風景(ジオラマ)』
『奇談』のように語られたキミの
明日が生まれて称える『言葉』は
『何千里』も連なる ―― 」





ィイイィィィィイイィィイイィィィィィイイイイイィィィィィィィイイイィィィ………

『仟歳期之太刀』が相互に共鳴する。





「 ―― なにもかもが消え
なにもかもが来る ―― 」





ぱきぺきぽきぴき………

軋むような音を立てて、『仟歳期之太刀』がその姿を変える。

無機質な『日本刀』から、有機的な『生ける武具』へと。





「………『ニッズヘッグ』、『フレスヴェルク』………」

「「委細承知」」

「『世界竜(ウロボロス)』」

「御意に」





次の瞬間 ――





二人は弾かれたように『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』に向かって突進した。

光の刃が消えたため、ヒレ(素手)で迎え撃つ『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』。

逆手に構えた『フレスヴェルク』で『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』に斬りかかる。

難無く右のヒレで受け止める『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』。

「鬼神楽壱之太刀 ―― 『初音』ッ!」

そのまま右手の『ニッズヘッグ』を突き出す。

が、難無く半身になって避ける『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』。

「弐之太刀 ―― 『楓』ッ!!」

『ニッズヘッグ』を振り下ろし、太刀風を周囲に散らす。

クルクルと回りながら衝撃波を殺す『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』。

「参之太刀 ―― 『梓』ッ!!!」

下から右に ―― 逆一閃に『ニッズヘッグ』を振り抜き、太刀風の刃を横薙ぎに放つ。

これはヒレを振り払った『衝撃波』で相殺される。

「終之太刀 ―― 『千鶴』ッ!!!!」

袈裟懸けに ―― 『氣』を込めて周囲すべてを吹き散らすほどの ―― 『衝撃波』を纏わせて『ニッズヘッグ』を振り下ろす。

ダメージは殆ど無かったものの、流石に衝撃波に押されていくばくかの後退を強いられる『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』。





「 ―― 知り得ないほどの『遠く』から
流れ流れて『運ぶ』よ
万象の『風』の到来
瞬きの『間』にも吹き上げて
数え切れない『生命』を連ねて
編み上げる『展開光景(パノラマ)』 ―― 」





『ブラックドッグ』の義肢に仕込まれたレーザー投影装置から、周囲に向けて描かれる『立体映像(ホログラム)』。

それは、【魔方陣】の形をとっていた。





「………行った! 悠(ゆう)!!」





ぎごごごごごごごごごごごごこ……………………………………………………

そんな気配を漂わせて、周囲に『氣』を放出しながら『仟歳期之太刀』を構えている『パーペチュアル』。





「………『絶対魔剣』!!」





流石にかたっぽじゃ間に合わないと判断したのか、器用に両ヒレを交差させて防禦姿勢を取る『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』。

流石に勢いを相殺仕切れずに、大幅な後退を強いられる『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』。





「………でいッ」

『セヴンスヘヴン』が長さ30センチはある『呪核針』を周囲に投げ付ける。

「当たらないロリよ!」

狙いは『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』ではない。むしろ周囲の『地形』にこそある。

「よっ」

かこん、と、不発だった手榴弾を蹴り転がす『パーペチュアル』。





と ――





ぽすん

キラキラとした細かな粒子が『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』へと降りかかる。





ずどすっ

音高らかに、『仟歳期之太刀』が深々と突き刺さる。





「「今だ!」」





「 ―― なにもかも終わり
なにもかもが逝く ―― 」





瞬間 ――





GonGonGonGonGonGonGonGonGonGonGonGonGonGonGonGonGonGonGonGonGonGonGonGon………

VowVowVowVowVowVowVowVowVowVowVowVowVowVowVowVowVowVowVowVowVowVowVowVow………





『セヴンスヘヴン』の投げた『針』が刺さった区画めがけて光る粒子が ―― 『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』を巻き添えにして ―― 集まると………





LOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOLIIIIIIIIIIIIIIIIYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!?????





光すら歪める空間歪曲が発生した。

「……………………………………………………っく!?」

空間退縮に引き擦り込まれそうになるのを、各々、壁面や床面に突き刺した『仟歳期之太刀』で踏ん張る『ミレニアム』たち。

「………『重力井戸(ブラックホール)』ロリかっ!?」

「悪ぃな」

光の粒子が高重力に共鳴し、時間の流れを停止させようとする。

「………『静止モード』………ってヤツだ」

「『ポンコツ』くんみたいにすぐに、とはいかないのが難だけどな」





高重力と幾重にも重ねられた空間閉鎖のため、『力』の供給が発生しない。

こうなったら『自力』以外に頼れるモノは無く、『神話の主神クラス』でもどうにか封印出来るレベルの大技だ。

然も、呪紋が相手の“力”を吸収することでより強固に働くようになっているため、脱出しようと足掻けば足掻くほど“力”が抜け、呪紋の“力”へと変換されていく。

無論、呪紋の許容量を超える“力”に晒されれば呪紋自体が崩壊するのだが、それだけのことが出来る対象に出会えていないのも、事実だ。















「……………………………………………………なんとかなった………かな?」

「と、思いたい」

通路の空間の真ん中当たりで、ゴルフボールサイズにまで縮んだ時空間圧縮を見ながら嘆息する『ブラックドッグ』。

「………バッテリー切れだ。これ以上出てくるんなら、流石に保たないぞ」

「マグネタイトが切れましたか」

「お前らと違って、オレは『自力』以外の『力』の供給が殆ど無いからな」

苦笑を浮かべる『セヴンスヘヴン』。

「『ティア』さんぐらいですからね、あなたは」

「………ここでも『ママ』の助けか」

「……………………………………………………言ってろよてめー」

お互いに苦笑を浮かべながら、『仟歳期之太刀』を引き抜き、集まる。

「そろそろ空間閉鎖を解きますよ?」

「ああ」

「『世界竜(ウロボロス)』」

「承知した」

ループの通路が軽く揺らぎ、通常空間に復帰する。





『セヴンスヘヴン』が後ろを振り返ると、少し離れたところに通路一面を使った巨大な扉が見えた。

「『バーテンダー』の依頼通り………『事態を収束』させられたか」

「………考えてみれば、随分曖昧な依頼でしたね」





と ――





ぎいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃいいいいぃいぃいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ………

「………んなあ!?」

ぴしぴしぴしぴし、と、音立てて扉にヒビが入る。

「内側から、開こうとしている………!?」

「仁(ジン)、防禦………!」

「初撃防ぐのがやっとだ。第二撃から自力でなんとかしてくれ」

「………マジかよ!?」

ぴしん、ぴしん、と、ヒビが大きくなる扉。

幾ら『強い』とは言っても、『時空間』による状況変化に対しては、『時空間』そのものを攻撃・防禦手段に出来る『ブラックドッグ』に頼らざるを得ない。

「バッテリーが残ってない。………エネルギー供給が無いと流石にな」

「スペアバッテリーは?」

「交換している間、相手が待ってくれるか?」

「………微妙」

「だろ?」

不景気に引き攣った笑みを見合わせる。

「集まってくれ。ギリギリまで引き付けないと………持続時間的に持たない恐れがある」

「………そこまでヤバい相手でした?」

「見てくれで判断するべきじゃないだろ」

「だな」

「………『ティア』、済まないな」

「気にしない気にしない」

苦笑交じりの返事が返ってくる。

雰囲気としては、母親が『この子ってば、もう』な感じか。

若干ではあるが、体内に『力』が戻ってくる感覚。

「さあて………何が出てくることやら………?」

ヒビは扉一面に走り、今にも弾けそうにギシギシと軋む。





と ――





「……………………………………………………マジか!?」

ばっ、と、後ろを振り返る『ブラックドッグ』。

「まさ、か?」

「そのまさかだ」

「……………………………………………………マジ?」

「………『前門の虎に後門の狼』………かよ?」

「………『ダブル・トラブル』………」

「後で入れよう」

「いや、カクテルじゃ無くてな………」

『仟歳期之太刀』を構えながら、『力』を収束させて行く『ブラックドッグ』。

「全周防禦(ラウンド・パリィ)の連続かよ………適わんな」

「すまんな」

「気にするな。兄弟だろうが」

「………来るぞ」





全周防禦 ―― 三人が背中合わせにそれぞれ120度の範囲をカバー ―― の姿勢で待ち構える。





扉の方からは、『何』が出てくるか解らず………

通路の方からは、封じ込めたはずの『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』が空間圧縮を押し開いて出てこようとしており………





「………なぁ、今気付いたんだけどな」

「どうした?」

「………何で師匠たち、出てこないんだ?」

「………お前のお師匠?」

「『混沌と矛盾の領主』?」

「ああ。こんなにも『ワケ解ンなくて面白そう』なのに」

「「……………………………………………………………………………………………………」」

「それを言い出せば、『陸礎』の誰ひとりとして………?」

言って、引っ掛かりの原因に気付く。

しかし、事態はそこから先を許すほど、悠長では無かった。





「「「!!!」」」





瞬間的に展開した『断界』のお陰で空間振動と断裂には巻き込まれなかったものの、

「………バッテリー切れだ。『時空間制禦能力(クロノ・キネシス)』は打ち止めだぞ」

「………なんとかしましょう」

「すまんな」

「兄弟ですから」

「だな」

「……………………………………………………」





ひた、ひた、ひた、ひた………

砕かれた扉の向こうから、歩いてくる小さな足音。





「……………………………………………………『チェリー』ちゃん?」

「髪の色が違うだろ」

「あの髪の色の娘………いたっけ?」

「それ以前に………『眼』が………」

「ああ」

虚ろなのだ。

何も写していない。

「………呼んでる………?」

「何か聞こえるのか?」

『パーペチュアル』の肩を借りて立った『ブラックドッグ』が、『セヴンスヘヴン』に問いかけた。

「ああ。………『魂の泣き声』が」

「「……………………………………………………………………………………………………」」





と ――





LOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOLIIIIIIIIIIIIIIIIYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!!!!!!





ばぎいん………

空間圧縮そのものを切り裂いて、『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』が虚空から転がり落ちてくる。





「………マヂで何者だよ、こいつ」

「神話の主神クラス………偽『Y.H.V.H』ですら封じ込めたんだぞ………?」

「それ以前に………『ムゲン(無限)(夢幻)(無間)領域』を『内包』してやがるなんざ………正気の生き物とは思えんぜ………」

頭(かぶり)を振りながら、『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』に近寄る『セヴンスヘヴン』。

「………『セヴンスヘヴン』?」

「おい、あんた」

「………まだ邪魔するロリか!?」

警戒心も露(あらわ)に構える『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』。

「いや。邪魔する云々は抜きにして、………聞きたいんだが、いいか?」

「………何ロリか?」

「何だって………ここまで入ってこれた?」

「呼ばれたからロリ」

「………成程な。その声は………この娘か?」

傍らに佇んでいる ―― と言うよりも寧ろ自我もなくそこに有る ―― 少女を指さす。

「そうロリ。泣いてるロリよ」

「………あんたに頼みたいことがある」

「何ロリか?」

「彼女を………救けてやってくれ」

「………お前たちが閉じ込めて居たんじゃないロリか?」

「微妙に違う………と、思う」

「?」

器用に怪訝な表情を浮かべる『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』。

「彼女は………あんたを求めていた。多分………何百年、何千年も前から。あるいは………」

「………あるいはロリ?」

「彼女が『産まれた』時から」

「……………………………………………………何故ロリ?」

「これは推測でしか無いんだが………」

『セヴンスヘヴン』は、裸身を晒す『錬金自動人形の原型(アーキタイプ・アルケマトン)』を見ながら、彼が伝え聞いたことを話し始めた。





『陸礎』の一人、『無窮なる理に断り無く挑む者』が主導で『魂魄』をイチから造り出す試みが行われたこと。

それぞれの世界での『神』に対抗するため………かどうかは解らないが、何でも『ヒトを超えるヒト』を創り出そうとしたらしい。

「……………………………………………………毎度のことながら、何考えてるのか解らない『ヒト』たちですね」

微妙に場違いな感想を漏らす『パーペチュアル』。

『塩基』 ―― 肉体(マテリアル)としての『DNA』 ―― をイチから組んで、『ココロ』や『タマシイ』までも『無』から造り出そうとして………

「………失敗した、ロリか?」

「微妙なところだ」

『ヒト』を超えた『ヒト』………『超人』を造り出そうとしたらしい。

………まぁ、その結果として『錬金自動人形(アルケマトン)』の基礎構造理論が確立された、とか何とか。

ただ、その時に『完成』したはずの『個体』が、突如原因不明の暴走を起こし………

「その時に、この“店”………Cocktail Bar[MOON TIME]の半分が使い物にならなくなって、作り直さざるを得なくなったとか」

「………とんでもねぇな」

「『神殺し』とも呼ばれている『個体』だよ。なんせ、『オーナー』たち『陸礎』が総掛かりで何とか封じ込めた『存在』だからな」

「……………………………………………………そんなに怖いロリか? ただ泣いてる女の子ロリよ?」

「……………………………………………………………………………………………………」

「? どうしたロリか?」

「いや………凄いな、と」

『セヴンスヘヴン』がしみじみと溜め息を吐く。

「多分、………多分だけどな」

「?」

「この娘は………あんたを求めてたんだと思う」

「そうロリか?」

「ああ。だって、こんなにも綺麗な………」





「「やっぱりか」」





即座に突っ込む『パーペチュアル』と『ブラックドッグ』。

「……………………………………………………何が『やっぱり』だ?」

些かジト目になる『セヴンスヘヴン』。

「だって………」

「なあ?」

顔を見合わせて、半歩後ろに下がるふたり。





「「『チェリー』ちゃんだって、こんな『ちみっ娘』だろ?」」





「あれは『初期設定(デフォルト)』だっ!!」

「「じゃあ、何で設定を変えない?」」

「『チェリー』自身も気に入ってるんだよ!!」

「………『チェリー』ちゃんの『生前の姿』だってあったでしょう?」

「……………………………………………………それについてはノーコメントだ」

ぎしり、と言う音とともに握り締められる拳。

「あ………すまない」

「いや、いい」

「……………………………………………………ロリ?」

「?」

「『チェリー』………って、だれロリか?」

「ああ、こいつのメイドさん」

「この娘とおんなじ『ロリっ娘』で『ちみっ娘』な、ツインテールの女の子で………」





「……………………………………………………イイ趣味ロリな」

うんうん、と、頷く『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』。




「………どの辺りが?」

汗ジトを張り付けながら、それでも聞く『ブラックドッグ』。

「こんな可愛い女の子で、ツインテールで、メイドさんで………」

「「……………………………………………………………………………………………………」」

顔を見合わせる『パーペチュアル』と『ブラックドッグ』。





「「俺らは『ツインテール』よりも『ポニーテール派』だから」」





「それもなかなかイイ趣味ロリよ」

「………お前ら」

怒りの四つ角 ―― 青筋 ―― を浮かべて睨み付ける『セヴンスヘヴン』。

「……………………………………………………聞いていいロリか?」

「なんだ?」

「………ネコミミとかネコシッポとかニクキウとかは………付かないロリか?」

「………設定いじれば………っつうか、契約のときにあんたが強く願えば………多分、イけると思う」

「………契約するには、どうすればいいロリ?」

「してくれるのか?」

「ロリ」

「ああ………だからか。こんなにも綺麗に響きあってる………」

うっとりと目を細める『セヴンスヘヴン』。

「「響き合ってる?」」

顔を引き攣らせて『引く』『パーペチュアル』と『ブラックドッグ』。

「スフル(魂魄の波動)………」

「「……………………………………………………………………………………………………」」















「 ―― 此方より彼方へ
彼方を此方へと
遥かなる地より
遥かなる世より
ふたつをいつに
繋ぐ道を拓いて
至る橋を架けて
門扉の鍵を開け
今こそ辿り着け ―― 」















「………ここが【契約の魔方陣の間】だ」

「……………………………………………………………………………………………………」





呆然と ――

ただ呆然と ――

『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』は、呆然としていた。





呆然としているのは『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』だけではなく、『ブラックドッグ』や『パーペチュアル』のそうだったが。

部屋の中央には、円形の魔方陣。

周囲は奇妙な鏡張り。





「なぁ……………………………………………………『セヴンスヘヴン』………」

「オレはココで『チェリー』と契約しました!」

どきっぱりと言い放つ『セヴンスヘヴン』。

「ハイ、シました!!」

「いや……………………………………………………それはもういいから」

なんとなく危険な感じがしてきたのを受けて、『ブラックドッグ』が肩を叩く。





「さあ、二人とも【魔方陣】の中へ」

「そう言い切るか………」

『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』は呆然としながらも【魔方陣】へとよじ登り、その後に続いて『錬金自動人形の原型(アーキタイプ・アルケマトン)』が【魔方陣】へと歩みを進める。

「じゃあ、オレたち出てるから。何か有ったらそこの電話で聞いてくれ」

「………どうやって契約するロリかっ!?」

「向かい合って『我が名はなんとかかんとか。汝に名を与えん。汝の名はなんとかかんとか。我を主とし、契約せよ』………で、契約が始まる」

「……………………………………………………ロリ」

「その際に、『濃密な遺伝子情報を含有した体液交換』を行うことになる。それはまあ、個人個人で好き好きだが、相手が止まるまで相手することが必要らしい」

「……………………………………………………ロリッ!?」

「なんせ、『遺伝子情報』を読み取ることで『主』を固定し、その存在のすべてを読み取るらしいから……………………………………………………ガンバレ」

ぽむ、と、肩を叩く。

「……………………………………………………ロリィィィィッッ!?」

「それと………そこのスイッチで色々出来る。【魔方陣】の回転も有るし、照明の操作も可能だ。……………………………………………………お好み次第でどうぞ」

「……………………………………………………ロリィィィィィィィィッッッッ!!??」

「………ああ、そこの棚に色々入ってるから。ドリンクとか。………まあ、あんたなら大丈夫だろうとは思うが………」

「ま、待つロリーーーーーッッ!?」

そう言いながら、『セヴンスヘヴン』は『パーペチュアル』と『ブラックドッグ』を押し出すように部屋から出た。















「………なあ、天(テン)」

「ん?」

『セヴンスヘヴン』が幾分顔を赤くしながら応える。

「……………………………………………………この部屋って………」

「言うな」

「……………………………………………………まんま、『ラブホ』な………」

「言うなっつってんだろ」

顔が赤い。





丸い魔方陣………とは丸いベッドで(とは言え、シーツにちゃんと魔方陣が描かれてあった)、周囲の燈火はロウソク型の照明で(とは言え、ホログラムが重ねてあるので微妙に揺れてイイ雰囲気だ)、鏡張りの壁面は反射率を変えることで闇の中にいるかのように雰囲気を変えられる。

「………さて、しばらく『待ち』だな」















「………『ブラックドッグ』、時空震は?」

「まだ治まりきってない」

通路を少し行った先にあったロビーで、所在無げにソファに腰を下ろしていた。





まるで順番待ちか、指名待ち状態の ――

―― いやいや。





「オレのは『霊脈渡行』だからな。座標はあんまり動かないから」

「ああ。なるほど」

「………で、どれくらい時間が掛かる?」

「……………………………………………………ひとそれぞれ」

「あっそ」

「でもまぁ………推測するにしても………『長い』だろうな………」

「………『長い』………か?」

「多分」

あーもー、と、三人脱力する。





「………なぁ」

「なんだ?」

「契約………って、やっぱり……………………………………………………コトに及ぶワケだろ?」

「………ああ」

「……………………………………………………どうやってヤるんだ?」

「……………………………………………………見当たらなかったぞ?」

「………爬虫類系………か?」

「?」

「普段は体内に仕舞われていて………必要に応じて『出てくる』………」

「………待て待て待て。………爬虫類系なら……………………………………………………大変なんじゃないか?」

「………先っぽが………ふたまた………?」

「初体験で………いきなり『それ』かよ?」

「「「うわー /// ///」」」

あらぬ事に、無駄に想像を逞しくする。

「お互い………未経験者じゃ有るまいに………」

「っつってもなぁ………『あの姿』で『コトに及んでる』のを想像………出来るか?」

「……………………………………………………難しいなぁ」

『セヴンスヘヴン』は、ひとつ嘆息すると、唇に呪を乗せた。





「 ―― 我と契約を交わせし者よ
我は汝の『力』を求める
我は汝の『姿』を求める
我が呼ぶ声に耳塞がずに
今こそ我が元へ馳せ来れ ―― 」





「おっ呼びですかーっ?」

やたら元気な声とともに虚空から『チェリー』が出現する。

「「……………………………………………………」」

「………ごしゅじんさまぁ?」

脱力仕切った自らの御主人様 ―― 『セヴンスヘヴン』 ―― に、小首を傾げる。

「……………………………………………………『チェリー』、ちょっと手伝ってもらえるか?」

「はいっ。なんなりとっ」

満面の笑顔で、嬉しそうに応えた。















じりりりりりん………

「はい、もしもし?」

ロビーに掛かって来た電話に、即座に反応して応える『セヴンスヘヴン』。

「……………………………………………………長かったなー」

「まったくだ」

呆れたように時計を見る『ブラックドッグ』と『パーペチュアル』。

「なに? ようやく止まった? ………状態はどうだ?」










「も………もう、へろへろロリよ………。もう出ないロリ………」

[長かったからなー]

「………何時間………たったロリ………?」

電話越しに聞こえてくる『セヴンスヘヴン』の声に、疲労困憊と言った表情で呻く『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』。

[………●時間………]

「……………………………………………………ロリー」

げっそりと頬を痩せこけさせた『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』の傍で、恐ろしいほど艶やかな肌の『錬金自動人形の原型(アーキタイプ・アルケマトン)』がいた。

満足気な表情で、ゆるく寝息を立てている。

「………で、これからどうすればいいロリか?」

[目を覚ます頃には、お前の要求に従って『初期設定(デフォルト)』から『上書き(オーヴァーライト)』が行われる………ハズだ]

「ロリ」

[しばらくは『設定』前段階だから、受け答えが『機械的』になるけど、それさえ過ぎれば『人間らしい』受け答えに変わっていくハズだ]

「………大丈夫ロリか?」

[………なんとも。何せ、すべての原型たる『プロトタイプ』だからな。こっちが連れてる『チェリー』とは設定が違ってたりするところも多いだろうし………]

「ロリ………」





むくり、と、『錬金自動人形の原型(アーキタイプ・アルケマトン)』が体を起こし………





「………ロリ………?」

ギクリ、と、身を竦ませる『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』。

そのまま『錬金自動人形の原型(アーキタイプ・アルケマトン)』は口を開き………










[LOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOLIIIIIIIIIIIIIIIIYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!!!!!!]

「……………………………………………………ッ!?」

突如受話器から響いて来た絶叫に、慌てて受話器を外し、耳を押さえる『セヴンスヘヴン』。

「……………………………………………………ご、ごしゅじんさまー?」

「………まだ」

「え?」

「まだ、終わってなかったらしい………」

「……………………………………………………はい?」

[こっ、こっちにっ、こっちに来て救けてロリイーーーーーッッッ!!??]

「無理だ」

[そんな………即答ロリかッッ!?]

「だって………契約中に邪魔すると………オレ殺されちまう」

[……………………………………………………ロリィィィィィィィィッッッッ!!??]

受話器の向こう側で発生した耳にツく粘液音やらオンナのイイ声やらを拒むように、

「………終わってからまた電話してくれ。じゃ」

[ロリィィィィ ―― ]

ぶつっ。つー、つー、つー。















「………何とかならないロリか?」

「………その前に………」

二人の惨状を呆れながら、『セヴンスヘヴン』は唸った。

「ちゃんと風呂に入って来い。………ああ、最初はちゃんと『洗って』やれよ?」

「……………………………………………………ロリー」

「ンな情けない顔してんじゃねー」















「……………………………………………………んで?」

「ロリ」

「聞きたいことは?」

「………何を言っても『畏まりました、御主人様』しか言わないロリ」

「……………………………………………………む?」

「ごしゅじんさま、その、推測ですけれど」

「『チェリー』?」

「はい。多分………『COP』が影響しているんだと思います」

「あー」

心当たりが有るのか、渋い顔をする『セヴンスヘヴン』。

「『COP』?」

「はい。『Character Oprating Program』です。思考や行動に於ける………『人格的』な部分を司るプログラムで、その部分の設定によって、例えば『御主人様』への呼びかけ方ですとか、細かな仕草ですとかが変わってくるんです」

「……………………………………………………どうすればいいロリ?」

「彼女は………あ、すみません。これから『錬金自動人形の原型(アーキタイプ・アルケマトン)』のことを『姉様』って呼びます。

………その、姉様は、私たちのように、何らかの形で死んで、彷徨っている『魂』を封入したモノじゃなくて、『魂』を創ろうとした実験で産まれたって、聞いています。

だから………私たちと違って、本当に『産まれたて』なんです」

「………『産まれたて』………ロリか?」

「はい。ですから………貴方がすべてを教えていかなければならないんだと思います」

「逆に言っちまえば………」

頭をガリガリと掻きながら、

「お前次第で彼女はどうとでも変わる。………天使にも、悪魔にも。慈悲深くも、残酷にも」

「……………………………………………………責任重大ロリな………」

「どうする?」

「………時間が欲しいロリな。育てるにしても………時間が掛かるロリ」

「おう、それやったら何とでもすんで?」





不意に ――

横合いから声がかかった。





「………何者、ロリ?」

「『混沌と矛盾の領主』………それに『オーナー』、『無窮なる理に断り無く挑む者』」

「事情は理解しました」

『オーナー』が穏やかな笑みを浮かべながら近付く。

『錬金自動人形の原型(アーキタイプ・アルケマトン)』を背中に庇うように立つ『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』。

「………当店はCocktail Bar[MOON TIME]と申しまして、会員制のCocktail Barとなっているのですが………」

「……………………………………………………………………………………………………」

警戒を緩めない『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』。

「会員証を御用意させて戴きました。………そちらのお嬢さんの御召し物も御用意させて戴いておりますので、御足労願えますでしょうか?」















「………なるほど。大体分かったロリ」

「理解が早くて助かる」

「ロリ」

『無窮なる理に断り無く挑む者』の説明に、マグに口を付けながら応える『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』。

「………この娘はもうオレのものロリね?」

「キミにしか懐かないのだからな」

「ロリ」

「………『特別会員(スペシャルクラス・メンバー)』………『ヒルコ』の『初代(オリジン)』………ねぇ?」

「………でも、いいのかロリ?」

「何がですか?」

「その………こんなにも………もらって………ロリ」

「大したことではありませんよ。むしろ、微々たるものです。………この子………『マヤ』ちゃんでしたか………が、大暴れされることから考えれば」

「………ロリ」

「私としては………『娘』を嫁にやったような気分なので素直には頷けんが」

「……………………………………………………ロリ」





視線の先には………

ツインテールに髪を結い、メイド服を着せられた『マヤ』がチョコンと立っていた。

『ロリツインテールネコミミネコシッポデカリボンメイド』………名前を『マヤ』。





「………何だか服に着られている気がするロリ?」

「着慣れていませんからね。次第に馴染むでしょう。それと、しばらくはこちらで逗留して戴けますか?」

「『マヤ』の教育のためロリな。解ったロリ」

「……………………………………………………まあ、この調子じゃ早そうだな」

「ですね。ごしゅじんさま」

「えーと、『セヴンスヘヴン』………ロリ?」

「ん?」

「いろいろと教えてもらうことになるロリ」

「おう。オレで良ければな」

「済まないロリ」





「それと………『オーナー』」

「色々聞きたそうな顔をしていますね」

「当然です。………そもそもあの『区画』は『オーナー』たち『陸礎』でなければ近寄ることすら出来ない場所のハズ」

「……………………………………………………………………………………………………」

「にも拘らず俺たちの前に姿を現し………剰(あまつさ)え、『内側から破られる』など………」

「………管理責任ですか?」

「それもあります。ありますが………『識って』いたんですか?」

「何の事ロリ?」

「彼(?)が、彼女の『主』となることを」

「……………………………………………………………………………………………………」

ゆるく笑みを浮かべて、小首を傾げる『オーナー』。

「事情云々は兎も角………騒ぎが一時期、店の崩壊に繋がりかねない『危機』だったのは確かです」

「然るべき『事後処理』を行わないと………いくら『会員制(メンバーズ・オンリー)』とは言え、今後の対応にも関わるのでは?」

『ミレニアム』の三人が、交互に言い募る。

『ミレニアム』の三人も、第二の故郷としてのこの店を愛しているのだ。

「三人とも………私の『先予見』は知っていますね?」

「「「ええ」」」

「私の『先予見』は………『見た場景が現実になる』ものです。迂闊に使うべきものではないですし、使ってはならない“力”でもあります」

「………『シュレディンガーの猫』を『知る』コト………」

「ですね。認識するまで、それは可能性でしかありません。確率的なものを論じるよりも確かめる方が早いのですが………私が『確かめよう』とすれば、『望む結果』が『現実を侵食』してしまいます」

「『未来を記録した日記帳』………『アカシャの記録』………ですね」

「ええ。ですから………」

「予測はしたが、認識はしなかった。故に、事態は混乱したが、当事者たちの手で収められた………」

「そんなところです」

そう言われれば、三人は引かざるを得ない。

望む世界を作れるということは………『何が起きるか解らない』………未来を閉ざされた『破滅』にも等しい『終焉』なのだから。

「「「……………………………………………………………………………………………………」」」

三人、顔を見合わせて………

「「「……………………………………………………ふう」」」

盛大に溜め息を吐いた。















「さて………これを」

『オーナー』が、『額に“水夢”と描かれた謎の生き物』の前にグラスを置いた。

「………カクテル………ロリ?」

「貴方の名前となるカクテルです」

「『カクテル・ネーム』………ロリな。先刻聞いたロリ。………で、なんて名前ロリ?」

「………『未知との遭遇』………と」

「……………………………………………………ロリ」















★未知との遭遇『Close Encounters』★

マリー・ブリザール・メロン………20ml
ウォーター・メロン………20ml
パルフェ・タムール(ヴァイオレット・リキュール)………10ml
レモン・ジュース………10ml

シェークして、氷をいれたオールド・ファッションド・グラスに注ぐ。















「……………………………………………………なるほど」

「ロリ」

そこに居合わせた一同に、笑みが浮かぶ。

「確かに………あんだだと『未知との遭遇』しかないな」

「相変わらず、洒落た『カクテル・ネーム』を」










ここに………

長く閉じ込められていた少女は、自由の翼を手にした。















「ほらほら、おにぃちゃん、はやくはやくー」

「ロリ」

主導権を握っているのは、今や、どっちなのか解らなくなっているが。

「姉様、待ってぇ」

「『チェリー』も、はーやーくー」

「姉様ぁ」

「………なぁ」

「ロリ?」

「……………………………………………………幸せか?」

「勿論ロリ」

『セヴンスヘヴン』の問いに即答する『未知との遭遇』。

「そっか。……………………………………………………なら、いい」

「ロリ」

静かに笑みを浮かべる、漢二人。

「もー、おそいぞー?」

「ちょっと待つロリよー?」

「幸せ………か」

『セヴンスヘヴン』はひとつ肩を竦めると、前を走る『未知との遭遇』の後に続いて駆け出した。










closed book













後書き

お久しぶりです。

自前の店舗すら時々疎かになるLost-Wayと申すものです。

……………………………………………………遅くなりました。

50万だったか60万だったかの時に、

「『マヤ』ちゃんの馴れ初め書きましょうか?」

って言ってから……………………………………………………

……………………………………………………ゴメンナサイ。

延び延びになってしまいました。

然も、何か解り辛いネタばっかりだし………

重ねてゴメンナサイ。

水夢さん………これに懲りずにまたウチに来て下さいね?

『マヤ』ちゃんともども、お待ちしております。

lost-wayでした。





補足


http://www.kisweb.ne.jp/personal/lost-way

当店も宜しく御贔屓に。





注釈………と言うか、蛇足





『金剛不壊之盾(ダイアモンド・ウォール・シールド)』

『カブト』のスートを持つメンバーの標準装備。
文字通りダイアモンド製で、それぞれのメンバーに合わせてカスタムメイドされる。





『スノウマン』

『タタラ』のスートを持つメンバー。
同名のメンバーが数人おり、全員が『タタラ』である。
本編未出場。





『遥かな咆哮(Howl from Beyond)』

イメージとしては『Hellsing』の『ジャッカル』か。
名前の元ネタは『マジック・ザ・ギャザリング』の黒の《呪文》から。





『六礎』

「りくそ」と読む。『陸礎』とも。
「陸」は「六」の難字であり、金額記入時に使われる。
本編第十二夜にて全員の名前が明かされている。
Cocktail Bar[MOON TIME]の創設者の六人のこと。





『仟歳期之太刀(ミレニアム・ブレード)』

『カタナ』のスートを持つ『ミレニアム』の『名』を与えられた者に授けられた『生ける武具』。
異世界の神話の『龍皇』や『霊鳥』などを『武器』の形に変えたモノ。
『パーペチュアル』には『無限の世界竜(ウロボロス)』。
『セヴンスヘヴン』には『魂喰らいの竜(ニッズヘッグ)』と『死人喰らいの白鷲(フレスヴェルク)』。
『ブラックドッグ』には『魔物産みの母龍(ティアマット)』。
が、それぞれ授けられている。





『唯一絶対(The One)』『半位構成(The Harf)』『12分の1』

元ネタは「ジェット=リー」主演の映画『The One』より。
『パーペチュアル=ミレニアム』は、異世界に居る『自分自身』を吸収することで『独り』になり、結果、分散していた“力”を集めることが出来た。
また、『セヴンスヘヴン=ミレニアム』も、彼自身ともう一人の『二人』にまで『存在』が減っているため、強い“力”を手にしている。
それに対して『ブラックドッグ』は12分の1であるため、コンプレックスを抱いている部分があるようだ。





『機械仕掛けのサイボーグ・ボディ』

幼少期、家族全員を失った『ブラックドッグ』は、その時の事故で左腕と両足、左目と内臓の一部を欠損しているため、サイボーグ・ボディで補っている。





『仁(ジン)』『天(テン)』『悠(ユウ)』

『ブラックドッグ』の愛称。兄弟しか使わせない。
『ブラックドッグ=ミレニアム』の本名が『仁歳千歳(ひととせ・ちとせ)』であり、最初の一文字が『仁』であるため。
同様に『天(テン)』『悠(ユウ)』も、『セヴンスヘヴン=ミレニアム』の本名が『天七千歳(あまな・ちとせ)』、『パーペチュアル=ミレニアム』の本名が『悠久千歳(はるか・ちとせ)』であるため。





『時空間制禦能力(クロノ・キネシス)』

超能力のひとつ。
時間と空間を無理矢理動かす能力。
極めれば時間を止めたり、時間旅行が出来たりする。





『終滅(ついめつ)』

存在そのものの否定による、『因果からの削除』。
つまり『最初から居なかったこと』にされる。





『経紋車(マニ)』

機械式の『術法増幅装置』。





『鬼神楽』

某柏木四姉妹なのは………突っ込まないで下さい(汗)





『絶対魔剣』

『大復活祭』より。………解る人だけ解って(苦笑)





『マグネタイト』

生体磁気活性マグネタイト。いわゆる『精神力』とか呼ばれるモノ。
 売っている場合もあります。また、バッテリーにも蓄えられます。





『ダブル・トラブル』

ブランデー………2/3
ドライ・ベルモット………1/3
グレナデン・シロップ………4dashes
アンゴスチュラ・ビターズ………1dash
シェークして、カクテル・グラスに注ぐ。





『魂の泣き声』

『セヴンスヘヴン』は『冥府の使者』であるため、『魂』を感覚として感じ取れるため。





『錬金自動人形(アルケマトン)』

『チェリー』などのような『造り出された躰』を持つ少女たちの『全身義肢』の一種。





『姉様』

『錬金自動人形の原型(アーキタイプ・アルケマトン)』、つまり『一番最初に産まれた“姉”』であるため。





『ロリツインテールネコミミネコシッポデカリボンメイド』

そのうち『ロリツインテールネコミミネコシッポデカリボンイモウトメイド』になる。