トン
それが、愛しい彼からの最初で最期の贈り物……
寒い……
冷たい……
身体が身体で無くなる感覚……
転がり落ちるように眠くなる……
意識が霧散する感覚……
怖い……
でも、思い残す事はない……
だって、今こうして最期の時を愛しい彼の腕の中で迎えようとしている。
今までの人生で一番の至福だもの……
さようなら、遠野君……
さようなら、愛しい人……
想いは平和な日常に
1 発端
キ〜ンコ〜ン、カ〜ンコ〜ン……
「よっしゃー! 終わったー!!」
「こらー! 乾!! まだ終わった訳じゃないぞ!!!」
「チャイムは鳴りましたよ?」
担任の教師、国藤が呆れ顔で続ける。
「いいから席につけ!」
「そういうアンタは帰路につけ!」
「なめてんのかー!!!」
「やかましぃー! チャイム鳴ったら大人なら大人しく消えやがれぇー!!」
バキッ! ドゴッ! ガスガス……
乾 有彦……
我が親友であり、好敵手でもある。
して、その実態は…… よくわからない。
いや、わからないって事が良くわかっているのかもしれない。
とにかく俺は、わからないって事で理解しているが、他のヤツ等にはそれすらわからない男である。
最近は何かと暴発気味であり、その理由は財政難だとか。
何故か大量にニンジンを買い込む有彦の姿が目撃されている。
「で、結局お前のせいで授業が余計に長くなったじゃないか。」
「そういうなよ。最近、物足りなくってね。」
「何か不満があるのか?」
放課後の教室に残っている。まだ数名のクラスメートと共に。
「そりゃそうだろ? 美人が少なくなったのは貴重な資源の損失……」
「はぁ? 何の話をしてるんだ?」
「弓塚だよ。」
「!?」
思わず、息を呑んだ。
弓塚さつき……
そう、俺の周囲に巻き込まれたせいで死ぬ羽目になった。
正確には俺が逝かせたのだが……
「可愛い娘が居なくなると寂しいじゃねーか? 何やら、行方不明とか死んだとかってな。」
「……」
「始めは、遠野が手を出してポイされて、ショックで登校拒否かと思ったがな。」
このボケは真顔でとんでもない事を言いやがる。
周囲の女の子も何故か頷いて…… 俺に何か恨みでもあるのか?
「何で俺なんだよ?」
「アイツ、お前に惚れてたじゃねーか? まさか本当に気付いてなかったのか?」
それはあの日、初めて知った。
翡翠にも言われたが、どうやら俺は愚鈍であるらしい。
「てっきり、気付いてて無視してると思ったんだが。まあ、お前のそういうところも含めて惚れていたようだがな。」
周囲の女の子達、深く溜息をつく。
今では、わかっているし反省もしているから露骨なリアクションはこたえるんだが……
「ところでどうする? 久しぶりに遊びに来るか?」
「いや、今日はちょっと寄るところがあるんだ。」
「そうか、珍しいな。じゃ、また今度な。」
そう言って立ち去る有彦。
「ああ、すまない。」
「いいって事よ。それからなー……」
立ち去りながら振り返り言葉を続ける。
「辛そうな顔しやがって。元気だせよ。」
「え?」
「気が向いたら話してくれや。力になるぜ。」
「あ、ああ。ありがとう。」
「じゃーな。」
普段は馬鹿なクセしやがって、こんな時だけは獣の如く敏感なヤツだ。
でも、そんな有彦の気遣いが妙に気に入っていたりする。
だからこそ、親友なのだが。
それから間もなく俺は教室を出た。
校門には、金髪の美女が待っている。
「やっほー♪ 志〜貴♪♪」
「学校まで来るなよ。毎日毎日……」
「だって、志貴に会いたいんだもん。いいじゃない。ね?」
金髪の美女。アルクェイド・ブリュンスタッド。
早い話が俺の恋人である。
まー、コイツだけが恋人って訳じゃないんだが……
「全く…… でも、今日は寄る所があるんだ。」
「えー、じゃあ私も一緒に行く。」
「……別に構わないけど、面白い所じゃないぞ?」
「いいわよ。志貴と一緒なら。」
屈託の無い笑みで答える。
本心からそう言ってくれる。これがコイツの魅力だ。
「わかった。行こうか。」
そして二人で繁華街へと向かった。
「ドコへ行くの?」
「そこの花屋。先月、知り合いが亡くなったんだよ。」
あの日から、ちょうど一ヶ月。
一月たった今でも鮮明に覚えている。
忘れるような事ではないのだが、つい今しがたの様に覚えている。
「御供え?」
「ああ。」
「菊の花とかだね? 御供えして、後で御浸しにして食べるって言う……」
「喰うな!」
思わず声を荒立てる。
露骨に不満な表情をするアルクェイド。
「えー? 何で?? 引き出物って言うんじゃないの?」
「それは、歪んだ知識だぞ? そんな知識ドコで仕入れた?」
「琥珀。」
「ぁぅ……」
平然と言い放つアルクェイド。その知識の異常さに全く気付いていない。
むしろ、『何が悪いのよ?』っと言わんがばかりである。
だが、その知識の発信源が琥珀さんか。
納得。あの人ならやりかねん。
しかし、アルクェイドみたいなタイプのヤツに、そんな事を教えてほしくはなかった。
冗談でも、間に受けるから……
「で、どれにするのー?」
「んー、そうだな。花の知識なんて俺には無いから、綺麗で気に入ったのにしようか?」
「じゃ、一緒にみようね♪」
「ああ。」
店内には、様々な花が置かれている。売る為ではなく育てているのを単に置いてあるだけ。
栽培を重視するこの店は近所では有名だった。
本当に、良い花を売る…… いや、売る事など考慮していないような感じすらある。
花の為に全てを……
うん、噂通りの店だ。店としてはどうかと思うが、俺から見ると好感がもてる。
「いらっしゃーい。」
作業片手間の挨拶。
でも不精ではなく、花の手入れをしながらである。
「ゆっくりと見ていってくださいね。」
どのような花を……ではなく、見ていって……と言う辺りが気に入った。
「ねー、志貴ぃー。ここって雰囲気がお店と違うよねー。」
「どんな感じで?」
「んーっとねー、花達が自然な感じがするの。」
具現化した自然霊のアルクェイドには、そういった要素が目に付くのだろうか?
「単に売っている店と違うのは感じるが、具体的にどんな感じがする?」
「生き生きとしてるの。花も土も。元気一杯って感じ。」
なるほど。こいつが言うと妙に説得力あるな。
「お前も気に入ったのがあれば、買おうか?」
「んー、私はいいや。花の育て方知らないし、死なせたくないから。」
「それで十分ですよ。外人のお客さん。」
びっくりして二人で振り向く。
そこには、さっきの店員のおねーさんが立っていた。
「え? 十分って何で?」
素で問うアルクェイド。
「お花を大事に思う気持ちです。それが無いといくら丁寧に扱っていても可哀想じゃないですか?」
「そういうものなの?」
「ええ、貴女も恋人から愛されたいでしょ? 愛が無いと寂しいと思いませんか?」
「うーん、確かに。」
なるほど、そういう考え方もあるか。
だが、気持ちだけでもダメだろう。
「でも、それだけじゃ枯れてしまうよ?」
「気持ちさえあれば、お日様にあてて、水をあげたりするでしょ? ある程度はそれで十分なんですよ。」
「なら俺でも育てられるかな?」
「難しい事ではありませんから。でも、無理に買って育てる必要はありませんよ。ウチに見に来てくれればこうして育ててますから。」
本当に花に優しい店なんだな。
アルクェイドが言っていた、『花が生き生きしている。』ってのも頷ける。
「でも今日は御供えの花を見るつもりでいたんだ……」
「仏花ですか?」
「いや、別にお墓や仏壇に供えるんじゃなくて…… 何ていうかな? 明るい花をあげたいっていうか……」
「じゃ、気に入ったのがあったら呼んでください。でも、切花はしませんよ。死なせたくはありませんから。」
「どうやって供えればいいんですか?」
「小鉢に移しますから、御供えの間はそれで御願いします。水をあげて、時々日にあててくださいね。期日があるようでしたら、終わったらベランダとかで十分ですよ。」
「はい、まず花を見せてもらいますね。」
「どうぞ〜」
あんまり暗いのはイヤだな。
うーん、可愛いのがいいかな?
近くの小鉢にある花…… 三色スミレに手を伸ばす。
「これにしようかな?」
「へー、いいねー志貴。」
「パンジーですね? 持ち易いように小鉢ごと入る入れ物を用意しますね。」
店員さんも後ろから眺めて用意を始める。
「あ、いいですよ。近くですからこのまま持っていきます。」
「そうですか。わかりました。」
そして支払いを済ませて店を出る。
「ありがとうございます。また来てくださいね。外人さんにも、コレをどうぞ♪」
「わー、ありがとー♪ 大事にするね!」
「はい、可愛がってくださいね。ハルシャ菊っていいます。」
アルクェイドは貰った花…… ハルシャ菊を大事に胸に抱えている。
嬉しかったんだろうな。
あれ?
一緒に本を持っている。何時の間に?
「アルクェイド。ソレどうした?」
「コレ? 今一緒にくれたの。育て方を聞いたら、ついでに見てって。」
育て方も大事だが、あの店員さんらしいや。その本には『花言葉』って書かれている。
帰ったらゆっくりと見せてもらおう。
「で、志貴。ドコまでいくの?」
「すぐソコだよ。」
少し歩いて路地裏に入る。
「ここって……」
「ん?」
アルクェイドがニコニコしながら続ける。
「志貴と初めて話したトコだよね?」
「…… あ、そうだったな。」
表情一変。ムーって感じで俺を睨む。
「もー! 覚えてないの?」
「覚えていない訳じゃないけど、他にもあったんだよ。」
しばし考え込むアルクェイド。はっ!っとして赤面し続ける。
「私を押し倒した事とか? 怒ってないからいいよ。」
「……それは忘れていたよ。」
「志貴、冷たい……」
全然話が進まない。
だから無視して切り出す。
「クラスメートが死徒になったんだ。そしてココで俺が殺した。」
「!?」
「長い事、身近に居たんだけど…… 俺、鈍いから気付いてあげれなかったんだ。色々とね……」
「志貴……」
壁際…… 弓塚を看取った所に買ってきた花を供える。
アルクェイドはしゃがみ込んだ俺の背中に歩みより、俺の肩にそっと手をのせる。
「志貴…… どんな人だったの?」
「クラスではアイドルみたいな女の子だったよ。殆ど話もした事ないけどね。」
しゃがんだまま答える。
「ふーん、女の子の方か……」
「???」
振り返ると、アルクェイドは虚空を見上げている。
「どうかしたのか?」
「ん? 何でもないよ。」
立ち上がり、言葉を続ける。
「じゃあ、そろそろ行こうか? わざわざ付き添ってくれてありがとうな。」
「いいよ、私が好きで付いてきたんだから。」
「よし! それじゃお前の家で飯作ってやる。何がいい?」
そう言うと彼女は極上の笑みを浮かべる。
「本当!? じゃーねー、前のアレがいい!」
「また麺類か? アレばっかりじゃ太るぞ?」
「大丈夫! 私は絶対に太らないから♪」
そう言って腕を絡めてくる。
「それじゃ、うどんにしようか。キツネにするか、かき揚げにするか……」
「全部!」
「おいおい……」
まあ、これがアルクェイドらしいと言えばらしいので違和感などは全くない。
むしろ安心感すらある。
「良いお花屋さんを教えて貰って御飯も作ってもらったら、今度御礼しなくちゃね♪」
「花は俺じゃないだろ?」
「でも、きっかけは志貴でしょ?」
そんな話をしながら買い物を済ませてアルクェイドのマンションへと向かう。
この『御礼』で一悶着あるとも知らずに……
あとがき
書いていた作品が自らの不始末で全て失われ、怒りのエネルギーをSSに向けて書きました。
『また別のを書きやがった』っと、御思いかと存じます。
でも、書きたい話って山の様にあるんですよ。 月姫だけでもね。
力量不足で、追いついていないだけでして。
ですから、今回もこのSSにて御付き合い頂いた皆様方に、心より感謝致します。