「………ったく、何もありゃしねぇ」

失敗した、と言うか、迂闊だった、と言うか。

冷蔵庫の中は、物の見事に空っぽだった。

………今朝見たときは、多少野菜が転がってたような気がしたんだがな。

ポケットから財布を取り出し、中身を確認する。

「ちっと………ヤバいか………」

姉貴から生活費を貰うまで、後もう少し日がある。

無論、充分に保たせられる金額は入っちゃいるが、それだとそれ以外に何もできない。

遊びたい盛りの俺たちにとって、それは辛い。

遠野みたいに何もない状態で耐えられるほど、頑丈に出来てねぇし。

「……………………………………………………」



しかし、変だな、と、考えてみる。

今朝見たときは、確かにニンジンが幾らか残ってたんだが。

しかも、俺の周りをひょろひょろする、この気配は。

「……………………………………………………」

声もしなければ姿も見えず。

そのうえで飯だけ食うか――あの駄馬は。

「………ったくよ」

軽く息を吐いて、もう一度財布を確認する。

見慣れないカード。

トランプの『J』に似てるんだが、スートがなくて、代わりに『剣』が描かれてある。

何かの意味があるんだろうけどな。

「まぁ、しゃーねーか」

誰に、ともなく呟いて、俺は家の外へ出た。

この時間からなら、飯食って一杯引っかけても大丈夫だろう。

俺は、纏わり付くような『何か』の気配を連れて、街の中へ歩きだした。













月姫カクテル夜話《CASINO》







Written by “Lost-Way"




カランカラン………と、ドアベルが鳴る。

「あ、お帰りなさいませぇ。カクテルバー『ムーンタイム』へようこそおこし下さいましたぁ」

落ち着いた雰囲気を見せる樹のドアをくぐると、入り口付近を走っていたウェイトレスが舌っ足らずな声を掛けて来た。

前回、遠野と一緒に来た時のヴァイオレットちゃんとは違う――

「………あー」

年齢は十歳かそこら。ロリロリとしたあどけない顔立ちに、つるんぺたんな体型。

チェリー・ブラウンのツインテールが、動くたびにぴこぴこ揺れる。

それでいて、妙に体にぴったりとフィットした、露出の多いレオタード風味のメイド服を身につけているから、妙な感じだ。

「今日はフェアをやっておりますので、大変混雑致しておりますけど、どうかご容赦願いますぅ」

そう言いながら、手に持ったお盆の上に乗せられたカクテルグラスをひとつ、俺の方に手渡して来る。

「………こいつは?」

「あ、『カジノ』です。今日はフェアですので、このカクテルに限って言えば、サービスですのでぇ」



★カジノ『CASINO』★
ジン………1グラス
マラスキーノ………2dashes
オレンジ・ビターズ………2dashes
レモン・ジュース………2dashes
マラスキーノ・チェリー………1個
ステアして、カクテル・グラスに注ぎ、マラスキーノ・チェリーをカクテル・ピンに刺して飾る。



ま、サービスなら貰っても大丈夫か。

「そちらのお嬢さんもどうぞぉ」

後ろを向くと――

案の定、ななこがいた。

呆然と、グラスを受け取っている。

「……………………………………………………」

手が、蹄じゃなく『手』になってる。

ちゃんと俺にも見えるようになってるし。



「本日は、『カジノ・フェア』ですので、いつもより騒がしいですけど」

「その『カジノ・フェア』って何なんだ?」

貰ったカクテル――カジノ――に口を付けながら聞いてみる。

レモン・ジュースとオレンジ・ビターズが効いてて、すっきりする。

「『カジノ』が何なのかは御存じですよね?」

「知ってる。賭博場だろ? って、じゃあ、今日は………」

「はい。みんなでギャンブルする日なんです。あ、そうは言ってもお金は賭けませんよ? このお店のポイントを使って賭けますから、勝てば、このお店経由でのお買い物が楽しくなる、と言った程度ですね」

御案内します、と言って先を歩くちっちゃなメイドさんについて歩く。

「申し遅れました。あたしは、『チェリー』って言います。今後ともよろしく」

ぺこり、と一礼する。

「お席の方は相席しかございませんけれども、ご案内いたしましょうか? それとも、しばらくゲームに向かわれますか?」

「席に案内してくれ。腹拵えしねぇと、勘も冴えねぇ」

「かっしこまりましたぁ」

元気よく笑顔を向けると、

「こちらになりますぅ」

と、先に立って歩きだした。

「おら、ななこ、行くぞ」

いまだぼーぜんとしているななこを連れて歩きだす。

「あ、有彦さん、ここ、変ですよ?」

「んなこたぁわかってる。でもな、旨い酒を飲ませてくれる所に悪い所はねぇんだよ」

「そんなこと言っても、ここ、かなり高位で強力な『魔』の気配が回り中からするんですよぅ」

「………っつって、喧嘩売って来てるわけじゃねぇだろが」

「それは………そうですけど」

「じゃあ、問題なしだ。向こうも向こうで気持ち良く酒呑んでんだ。邪魔する方が無粋ってもんだ。粋じゃねぇ」

「い………粋とかそういう問題ですかぁ?」

「そんなもんだ。………テメェもタダ飯くってんだからちったぁおとなしくしやがれ」

「ふ、ふぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」



「こちらですよ〜」

ななこと話しているうちに、席についたようだ。

前回、遠野と来た時はカウンターだったが、今回はフェアの所為か、カウンターは満席で、ゲームボードの卓の周りには人があふれ、ルーレットやダイス、カードなどに興じる奴らでいっぱいだった。

そんな中、食事メインのエリアが築かれ、そのテーブルのひとつにチェリーと名乗ったウェイトレスが声をかけ――

――その科白に俺は引っ繰り返りそうになった。

「ごしゅじんさまぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「おぅ、チェリー。どうした?」

「ご………ごしゅじんさまぁ?」

びっくりして固まる俺たちを尻目に、二人はそれが当たり前であるかのように話す。

「お客様がお二人、来られてるんです。それで、お食事をされるそうなので、こちらでもよろしいですか?」

「俺は構わないよ。先方はどうなのかな?」

「お二方ともよろしいですか?」

「………あ、ああ。別にいい」

「そちらのお嬢さんは?」

「有彦さんがいいって言うなら、いいです」

「では、どうぞぉ」

ふたり、チェリーのご主人様とやらに向かうように席に着く。



歳は………俺と同じぐらいか。

左目の上を斜めに横切る刀傷が厳ついが、それを含めても穏やかな印象を受ける。

とは言っても、遠野のようにどこか危うい、刃を隠し持った鋭さも感じ取れる当たり、見た目どおりの奴とは限らないだろう。

「………お二人、どういう関係なんですか?」

――ななこ、その聞き方はストレートすぎるぞ。

「聞いたとおり。俺がチェリーのご主人様してる。あぁ、自己紹介がまだだったな。俺は『ミレニアム』」

「『ミレニアム』?」

「カクテル・ネームだけどな。『セブンス・ヘブン=ミレニアム』が俺の通り名だ」

「俺は………有彦。乾有彦だ」

ここで気取ってカクテル・ネームとかを名乗っても意味がないだろう。

「で、こっちがななこ。見ての通り、駄馬だ」

「あー!? それって失礼ですよぅ。これでも由緒正しい『第七聖典』の精霊なんですからねー!!」

「………確か今は………埋葬機関第七司教が携行所持しているんじゃなかったっけ?」

「………そうなんですよー。マスターったら非道いんですよー? それで、逃げてきちゃいました」

「それで、乾君が暫定で契約者なわけか?」

「そうなんですよー」

「あぁ、チェリー。適当に持って来てあげて」

「かしこまりました。ご主人様」

「奢りかよ?」

「この後、ゲームに付き合ってくれるなら。あんまり見れるものじゃないからな。『第七聖典』の精霊なんてものは」

「こいつがねぇ」

えっへん、と、たいしてありもしない胸を張るななこ。

「こんな駄馬でよけりゃ、幾らでも見てくれ」

「そうか。じゃあ、ベッドの上での可愛い姿も見せてくれると――」

その科白は、ゴスッ、という打撃音で中断させられた。

「……………………………………………………」

「……………………………………………………」

俺とななこ、二人して沈黙する。

巨大な、鎖で繋がれた刺付きの鉄球――いわゆる『モーニング・スター』って奴だ――で自らの『ご主人様』を、マンガかアニメのように殴り倒したチェリーちゃんの姿に。

「………チェリー、痛いよ」

「ご主人様がバカなことをおっしゃるからですっ!」

ぷんぷん、という擬音すら聞こえて来そうだ。

「女の子から声をかけて来るならいざ知らず、ご主人様から女の子をナンパしないで下さい」

「………女の方から誘って来るのはいいのかよ」

「それは、それだけご主人様が魅力的だという証明になりますから」

………それはそれでどうかと思うぞ、チェリーちゃん。



「はい。お待たせしました、ご主人様」

そう言いながら、『ミレニアム』の前にカクテルと、お摘まみ――と言うにはちょいと多めの料理――を並べた。

「お二人は、もう少し待っててくださいね」

そう言いながら、俺たちの前にも箸やらフォークやらスプーンやら並べる。

「あぁ、二人とも。よかったら摘まんでくれ」

「んじゃ、ありがたく」

手を伸ばす。

サラミを載せた薄切りのフランスパンだとか、ポテトサラダだとか、枝豆だとか――

「俺も晩飯がまだでな。食ってからでないと、勝負するにも勘が働かなくてな」

「俺もだよ。――それにしても、前に来た時とはすげぇ雰囲気違うな」

「フェアのときは、いつものゆったりした雰囲気とは一変して『お祭り騒ぎ』になるからな。――あぁ、フェアのときでもゆっくり呑みたいんだったら、それ相応に“奥”に入れてもらえるだけ店の人と仲良くなってないと駄目だから」

「そっか」

カクテルを飲みつつ、『ミレニアム』の料理を摘まむ。

鳥の唐揚げ、豚肉とナッツのパインソース炒め、ちくわのしそまき、揚げ出し豆腐に出し巻き卵。

「………ななこ。相変わらず遠慮ってものがねぇな、おめーはよ」

「……………………………………………………はえ?」

キャロットサラダを頬張るななこ。

――予想されたことだが。



「おめー。カクテル呑まねーの?」

『カジノ』なら、幾らでもお代わりが出来る。だのに、最初の一杯に口を付けただけでその後、呑もうともしない。

「これ、ちょっと酸っぱくてきついですよぅ」

「………お子様」

「あー! 有彦さんよりもずっと年上ですよ!? 精霊ですよ!?」

「口がお子様だっつってんの。甘い酒しか呑めねーなんざ、お子様もいーとこだ」

………向かいに座った『ミレニアム』がくすくす笑ってやがる。

「仲がいいな。まるで、俺と契約を交わしたころのチェリーみたいだ」

「そういや――あの娘も精霊か何かか?」

「もともとは………幽霊だったんだけどな。実体を与えてから、そばに居てもらってる。実際のところ、あれで900年ぐらいの時間を超えてるから、俺の方がまだまだガキなんだろうけどな」

「幽霊か………」

「………その割りに、かなり高位の『魔』の気配がしますよ?」

ななこが不思議そうな声を出す。

「かなり高位の『魔』の気配がする割りに、ほとんど邪気を感じませんし」

「そりゃ、チェリーの心の中は『愛』で満ちてるからな」

――この野郎………いけしゃあしゃあと。

「あいつの考えだと――」

「――契約を交わしたご主人様は、献身とご奉仕でお仕えするのが基本。身も心も持てる限りをもって尽くすのが必然」

『ミレニアム』の言葉を横取りする形でチェリーちゃんが横から口を挟む。

「望まない契約を交わさせられたのなら、それは自閉症のように『力』をすべて封印してもいいでしょう。でも、あなたが――貴女が彼を契約相手に選んだのなら、彼に迷惑をかけるのは以っての外。貴女が自ら行った契約なら、貴女の分の責任はきっちりと持ちなさい。それが、器物と共にある『契約の精霊』の姿なのですから」

途中から、あどけなさが消えて異様に大人っぽい雰囲気を見せた。

この駄馬とはエライ違いだ。



「それに、この姿の方が何かと都合がいいですからね、表向き。ちっちゃな女の子だと、何かとおまけしてもらえますから」

料理を並べながら、軽くウィンクする。

料理を並べ終えた後、チェリーちゃんは軽く、クルリ、と、スカートを翻しながら回ると――

ぽむっ、と、軽い破裂音と共に――



「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」

――姿を変えた。

ななこなんて、口に咥えていたニンジンを取り落とすぐらいだ。

「いかがですか? 『ティーンエイジ・ヴァージョン』ですけれど」

外見年齢で言えば、俺たちと同じぐらい。

ななこなんて置いてけ堀にしそうなスタイル。

――遠野にちょっかいをかけてるアルクェイドさんに匹敵するぞ、このスタイルは。

そう。小さい時のチェリーちゃんが成長すれば、丁度こんな感じになるか?

「普段は、小さい女の子の方が楽ですから、あの格好をしていますけれども、ね?」

うふふ、と微笑む。

………なんというか。

妙に、体にぴったりとフィットした、露出の多いレオタード風味のメイド服を突き上げるふたつの大きめの膨らみが――

「……………………………………………………!!!」

――着けてないのか、チェリーちゃん。

――着けていないのかっ!

――ナイスだ。ナイスすぎるぞチェリーちゃん!!

「………『ミレニアム』」

「? どうかしたか?」

「ありがとう。感謝するぞ」

「? 何かよく判らんが………まぁ、どういたしまして」

豊かに実った双丘の頂上で主張する更なる小さな膨らみ。

『ミレニアム』がチェリーちゃんのご主人様、と言うことは………

………『あーんなこと』や『こーんなこと』も?

――うらやましい。

――うらやましすぎるぞチックショウ!

「なぁ、この駄馬とチェリーちゃん、取っ替えねぇ?」

「有彦さん!?」

「それゃ、無理だ。契約は強固にして互いの魂を結び付けているから」

「………ダメかー」

この駄馬をお払い箱にするいいチャンスだと思ったんだがな。

「………乾君、口に出とるぞ」

次の瞬間――

「はぶし!」

ななこの一撃が俺を襲った。




「ごちそうさまでしたー」

満足そうなななこの顔。

無論、俺の顔にはビンタの跡が残ってたりするんだが。

蹄じゃなくてよかった………



「さて、勝負しにいくか?」

「おう。んで、どんなのがあるんだ?」

「通り一遍のカードとルーレット。TCGなんかは、マイナーだな。あんまりやるやつがいないし」

「TCG………」

やっぱ、遊○王とかそう言うのは似合わねぇよな、こんなところじゃ。

「あとは、単純にダイスゲームとか、ボードゲーム系も案外多いな。大体が絶版になってるから、コレクターなんかがこの時のために貸し出してくれたりするのを、みんなでやったりとか」

「………人生ゲームか?」

「それだけには収まらないよ。『カタンの開拓者』『ファースト・フード・フランチャイズ』『ジュマンジ』『ロンドン・ウォーカー』………あと、俺も始めてやるものも相当数ある」

「………んで、お勧めは?」

「単純にサイコロを振り合う『グリード』が今は気に入って、ちょくちょくやってる。そんなとこかな」

「んじゃ、それやりに行こう」

「――こっちだ」



案内されて行くと、結構本格的なテーブルだ。

「おや、『ミレニアム』様。………これはこれは乾様も」

ヴァイオレットちゃんがいた。今日はメイド服じゃなく、ぴちっとしたバーテンダー・スタイルだ。

「やっほ、おひさ〜」

「今日は可愛らしいお嬢さんとご一緒ですか?」

「ま、そんな〜」

「あぁ、この駄馬の言うことは無視してくれ」

「ヴィオ、ディーラーか?」

やっぱり、と言うべきか。

常連だけあってか、この店に詳しいようだ。

「はい。本来はバーテンダーだったのですが………どうも、駆り出されまして」

苦笑を浮かべる。

「『グリード』やってる?」

「はい。今は、インターバルを取っておりますけれど………」

「じゃ、次の参加者に足しといてくれるか? 俺と乾君の二人」

「畏まりました。まずはメンバーズカードの確認と、チップの交換を」

促されるまま、カードを渡す。

「何ポイント使えるんだ? オレ」

「乾様は……………………………………………………なにこれ」

手元の読み取り装置を覗き込んで、表情を強ばらせる。

カードを取り出し、表裏を確認し、その上で読み取り装置にかけるが、やっぱり表情は驚愕に強ばったままだ。

「………『カブキ』の連れってことで、オーナーサーヴィス入ってるからじゃねぇか?」

横合いから『ミレニアム』が声をかけて、やっと納得したという顔になる。

「使用可能ポイントは、10万ポイントとなっております」

「1ポイントが日本円で換算して100円程度だと思えばいいか。カクテルの1杯が大体1〜5ポイント程度だから、どれだけ入ってるかは推して知るべし、だな」

当分、ここで飲み食いしても大丈夫、か。

ありがたいっちゃ、ありがたいが。



「で、ゲームの話しに戻るけど。チップは最低500ポイント分から使うわけだけども、どうするよ?」

「んじゃ、1000ポイント分」

「畏まりました。お席へどうぞ」

席に着くと、右手にカクテルスタンド付きのチップ・ホルダー。

椅子もかなり豪華で、ちゃちな賭場とは違う。

雰囲気がそうさせるのか、座っただけで一流のギャンブラーのような気分になる。

………後ろの駄馬がもっと可愛いメイドさんなら、もっと気分が良いんだろうが。

チップ・ホルダーに並べられた、曇りなく磨かれたチップ。

手ぇ掛かってるなぁ。贅沢にも。



「では『$GREED』のゲームを開始させて頂きます。ディーラーは私、ヴァイオレットが務めさせて頂きます」

ペコリ、と一礼。

周囲を見回すと、テーブルに着いているのは6人。

俺。右回りに『ミレニアム』、ミラーシェードにスーツ姿の女、正面に時代がかった片眼鏡のおっさん、どう見ても『街娼』としか見えない色っぽい女、そして俺の左にディーラーのヴァイオレットちゃん。

「ルールのご説明を」

そう言って、軽くカクテル・グラスに口を付ける。

「『$GREED』とは、自らの手番に於いてプレイイング・マットのサークルの中にダイスを振り込む、と言う単純なゲームです。この時、サークルの外にダイスが転がり出た場合、或いは手元から零れて振り込めなかった場合は失格となり、手番が次の方に移りますので、予めご理解下さい」

なるほど。

「まず、ダイスの説明ですが………御存じの通り、正六面体を致しております。このそれぞれの面に描かれました模様………

『Silver』の『$』、

『Gold』の『G』、

『Ruby』の『R』、

『Evony』の『E』、

『Emerald』の『E』、

『Diamond』の『D』、

を表しております」

なるほど。それでつなぎあわせて『$GREED』か。

それぞれの『色』で描かれていて、見た目にも綺麗だ。

「また、ただダイスを振るだけでは御座いません。ダイスを振り、役を作るのがこのゲームの根幹となっております。その役は、次の通り………

『$』と『G』は、ふたつ揃う事によって役が成立します。

『$』は、役成立の場合、『50点』

『G』は、役成立の場合、『100点』

『R』『E』は、みっつ揃う事によって役が成立します。

『R』は、役成立の場合、『200点』

『E』は、役成立の場合、『300点』

『D』のみ、ひとつから役として成立します。

『D』は、この場合ひとつ当たり『100点』として役となります。

以上、宜しいでしょうか?」

ぐるっと見渡し、異論がないのを確認すると、

「こうして役を作り、その得点を加算し、最初に5000点に到達された方が勝利者、となります。この時、勝利者が出た後も手番は一巡
致しますので、追い上げは可能となっております」

逃げ切り、だけじゃなく、追い上げも可能な訳か。

「また、役を作る上で、役が出来たダイスを脇に退けて、役になっていないダイスを振り足すことで、点数を加算して行きます。この時、役の合計が500点に満たない場合は降りて点数を確保することが出来ず、又、降りる前に役が成立しなかった場合は、その得点は加算されませんので、ご理解頂きます」

「………つまり、500点以上の役を作ったうえで、次の人に手番を渡して、ようやく自分の点数になるのか?」

「御理解が早くて助かります。その通りです」

「全部のダイスで役が成立したら?」

「その場合は、その点数のまま、ダイスを最初から――6個で――振り直すことになります」

なるほど。駆け引きか。

自分の手番でダイスを転がせる範囲で、どれだけ稼いで、降りて点数を確保するか。

調子に乗って役不成立で全損する前に、確保して行くかが駆け引きか。

「なお………」

ヴァイオレットちゃんは続ける。

「『$』『G』『R』『E』『E』『D』とダイスの出目が一度に揃いました場合は………『$GREED』成立として一挙に5000点の役になりますので」

全部の出目が違う、となると………

「45000分の1ぐらいか?」

「正確には46656分の1ってとこだな」

『ミレニアム』の訂正が入る。惜しい。

「勝利者が出ましたら、勝利者の獲得された点数に御自身の出された点数を合計した点数の20分の1、端数切り上げのポイントチップを勝利者にお渡し頂きます。以上、ルールの説明ですが、何か御質問は?」

俺以外はやった経験があるようで、特に質問は出ない。

勝つためには早く点数を稼ぐ必要があり、勝てないと判った場合はポイントチップの減少を押さえるために点数を稼がないようにする必要があり。

――駆け引きか。

「デュエルは通常、『参加者の人数+1回』を基本に行われますが、それも、宜しいですね?」

この場合、参加者が6人だから、7回連続でやることになるのか。

「いいぜ。始めてくれ」

俺の言葉を受けて………

「では………『OPEN THE DUEL』!!」

そして、デュエルが始まった。





「強いな、君は」

片眼鏡のおっさんが面白そうに呟く。

「………『エル・プレジデンテ』。旦那は結果的に負けたんじゃないのか?」

「いや、そうでもない。このデュエル以前に稼いでいるから、正味、とんとんよりも少し多めに勝てた、と言ったところだよ。『ミレニアム』」

片眼鏡のおっさんは『エル・プレジデンテ』とか言うのか。

「『ナイト・シェード』………これはビギナーズラックかしら?」

「そうね、『ドラゴン・レディ』。――ねぇ、これから………ふたりで、どう? 勝負に強い人って、好きよ?」

「………『ミレニアム』」

「ん。気を付けてな。ほどほどにしとけよ?」

「ああ。ななこをしばらく見ててくれ」

「りょーかい」

軽くカクテルグラスを掲げて答えてくれる『ミレニアム』にななこを任せ、『ナイト・シェード』と呼ばれた美女について行く。

「あ、有彦さん!?」

「ま、男と女。色々あるだろ」

後ろに聞こえるななこの声は無視して。



連れて行かれた先は、当然というか、ベッドルーム。

ルームサーヴィスで届くカクテル。

「これが、今の私の気持ち」

レモン色………いや、金色にも近いカクテル。

「………『ビトウィーン・ザ・シーツ』………」

「御明答」

んふ、妖艶に微笑む『ナイト・シェード』。


★ビトウィーン・ザ・シーツ『Between the Sheets』★
ブランデー………1/3
ホワイト・ラム………1/3
ホワイト・キュラソー………1/3
レモン・ジュース………1tsp.
シェークして、カクテル・グラスに注ぐ。


「夜は長いわ。………たっぷりと、楽しみましょ?」

「………OK」

そして――





「………おかえり」

「有彦さん! ………何もなかったんですか?」

「? なんでだ?」

「いえ。だって………奥に入ってから、5分と経っていませんよ?」

!? そんなバカな。しっぽりと楽しんできたのに?

「浦島太郎の逆パターンだ。深く考えない方がいいぜ?」

………どうやら、そうらしい。

「………これは?」

カクテルが出される。

「今のお前だよ。『$GREED』の7回勝負のうち、4回も勝つなんざ、並じゃねぇだろ」

「残る3回のうち、2回勝ってただろうがよ、おめーも」

ふたり、にやり、と顔を見合わせる。

「『ミリオネーア』だ。意味するところは『大金持ち』。ぴったりだろ?」



★ミリオネーア『millonaire』★
ライト・ラム………1/4
スロー・ジン………1/4
アプリコット・ブランデー………1/4
ライム・ジュース………1/4
グレナデン・シロップ………1dash
シェークして、カクテル・グラスに注ぐ。



「………おだてても何も出ねーぜ?」

「今回は、フェアで騒いでたけどな。また今度はゆっくりと呑もうぜ?」

「そうだな」

「色々面白い話も聞けそうだ」

「おめーほどじゃねーよ」




「面白い所でしたねー」

「最初と言ってることが違ってるぞ?」

「いいんです。先入観に囚われちゃ失礼ですから」

「ま、面白いってのは認めてやるよ」

腑に落ちないのは、時間の流れが食い違っている、ということ。

それも、オーナーの仕掛けた『何か』なんだろうが。

「ま、暇があったらまた連れてってやるよ」

「お酒は『はたち』になってから!」

「気にしない気にしない」



そんな二人を………

月は、柔らかく照らしていた。








end………?
or continue………?



This Story has been sponsored by 『MOON TIME』 & 『KAZ23』
THANKS A LOT!!




後書き………のような駄文。

有彦&ななこのお話しです。
………結構、『新・マスター』とかの影響を受けてますね。このお話し。
この二人は、いいコンビだと思うんです。
ちょくちょく、この店に顔を出しそうですし。


次は、琥珀さんのお話しです。
うまく書けたら………ご喝采。

では。
LOST-WAYでした。