その時のオレは、久々に報告書を纏めるためにデスクワークをしていた。

[MOON TIME]のテーブルスペースのひとつに陣取り、パーソナル・ターミナルを立ち上げて、ここ暫く分の戦闘報告を纏める。

そうしないと『スコア』にならず、結果、収入にならないので嫌でもしなければならないのだ。

「……………………………………………………ったく」

頭をがりがりと掻き毟る。

こういう『地道』な作業は、どうも好き嫌いが激しいからな、オレは。

「ほらほら、この文。意味が通ってませんよ?」

お目付役のお陰で、何とかなってるっていうのが正解だ。

なんだかんだで、『チェリー』に頼りっぱなしの生活だからな。

そんなこんなで報告書を書き上げ、腹を宥めるために、自分で作るか、他の誰かに作って貰うか、と、腰を浮かせたとき………

彼女は、不意に現れた。




















[MOON TIME]異聞録

《SHINE》
















Written by “Lost-Way"















「………久しぶり、かな?」

「そうね。久しぶりね」

ターミナルを閉ざし、やって来た『チェリー』に渡して仕舞わせる。

「おなかすいてるんだけど?」

「……………………………………………………」

溜め息を吐きつつ、

「わかったよ」

と、腰を上げてオレ専用のバー・カウンターに案内する。










「『セヴンスヘヴン=ミレニアム』、最近調子はどう?」

「あんたほど悪くはない。いろいろ切羽詰まって来てるじゃないのか? そっちの事情も?」

「……………………………………………………そうかしら?」

………またこれだ。

「あんたがこの店に来るときは、必ず『切羽詰まって泣き叫びたい時』なんだよ。付き合うこっちはお人よしだからいいけど、よ」

「自分で言う?」

「病人なんで、よ」

苦笑混じりに返しながら、冷蔵庫の中身を確認する。

まあ、これだけあればそれなりのものが作れるだろう。

「………病人?」

「『マルローネ・シンドローム』」

そう、この店のスタッフは殆ど罹って居る病気だ。

「別名を、『すっとこどっこい症候群』」

「そりゃ、重症ね」

お互いに苦笑を浮かべる。





「………んで? 今回は何に悩んでるんだ?」

ある意味、お互いにいろいろ知っているからこそ、言える台詞だ。

「『彼』の覚醒が進んだからか?
それとも、『敵さん』の動きが活発になったからか?
或いは、『あの女』が表立って動き出したからか?
それとも、これからの組織の向かう方向性に困ったとか?」

遠慮もへったくれもない、そのものずばりの質問だ。

「………どうなっちゃうのかな、って、思ってさ………」

「それに対する答えはひとつだ」

カクテルをカウンターに置きながら言い放つ。

そう。オレ自身が問いかけ、師匠たちに言われて来た言葉。

「お前は、どうしたいんだ?」

「……………………………………………………やっぱり、その答え?」

「結論を出すのはお前さんだ。オレ達は、ほんの一息の休憩を作るに過ぎない」

そう、それが、オレ達のように『戦うことを押し付けられた』存在の本質。

「………あなたの世界は………」

「脅威で言うなら、それほど変わらないと思う。一番厄介なのが悠久のところじゃなかったかな」

「……………………………………………………………………………………………………」

黙り込む、彼女。

「あいつのところは、宇宙から『大銀河帝国』の『巨大ロボット』が攻めて来てたはずだから」

「……………………………………………………それはそれで大変そうね」

「ついでに言っちまえば、あいつ、あんたのところの『彼』と同じで、生身で戦う『ヒーロー』やってるな」

黙り込んだ彼女に背中を向け、料理を作る。

「構造的には、あんたと『彼』とかけて『おちゃらけ』と『優柔不断』を引いたようなものだから」

「……………………………………………………それって完璧に『ヒーロー』じゃない」

呆れたように目を丸くする。

「欠点が在るとすれば、更に『黒幕』してるって事か?」

「………呆れた」

くすくすと笑う。










「あーと、そろそろ始まるけど、見るか?」

「……………………………………………………何を?」

きょとん、と、目を見開く。

「あんたの世界のあんたたちの出来事。この店じゃ、他の世界の出来事を番組にしちまってるから、よ」

そう言いながら、料理を並べ、モニタ・ディスプレイを立ち上げる。

コマーシャルの後、オープニングテーマが流れ始めた。










虹を描く宇宙の呼び声に

天体 全体 あげて手を振る朝

キミは遥か地表の崖の上

何度も 何度も 遠くを 旅して来た



目を閉じて ここが見えるかい?



夢に隠れ果てなくキミを待ち

千年 万年 夜を数えて来た

いつか古い歌には歌われた

何里も 何里も 続く 心の国



目を閉じて ここが見えるかい?



Ah Ray-Bringer 覚えていた

Ah Ray-Bringer キミのことは

Ah Ray-Bringer いつか来ると

Ah Ray-Bringer 覚えていた

Ah Ray-Bringer いつか来ると

Ah Ray-Bringer 覚えていた





そして、番組が始まった。

先週までの苦戦に満ちた戦闘と、『彼』の不意で、しかも些か半端な覚醒による決着。

それらのコマと、ナレーションが流れた後、タイトルコールとタイトルカットが入る。



「……………………………………………………………………………………………………」

をいをいをいをい。

「………小細工もここまでくると芸術的だな」

「あっはっは。もっと褒めなさい」

「相変わらず容赦なしの台詞吐いてるますねー」

「エロ本ひとつでここまで盛り上がるか、あんたのところの組織は」

「楽しいでしょう?」

「………しかし、彼女、意外と強いな」

「だれが?」

「『キーボード・ヌンチャク』………『事務文具拳』の使い手がこんなところに居ようとは………」

「そんなにいいものかな?」

「それはそれとして」

「なかなか過激ですねー」

『チェリー』が、話に混ざってくる。

今の外見こそ十歳そこそこだが、十八歳バージョンと、二十五歳バージョンの3パターンの『ヒトガタ』を取り、
重甲冑姿で戦闘をもこなし得る『チェリー』は、日常生活でも戦場でも、そしてベッドの上でも、オレにとっての最高のパートナーだ。

「積極的なのか、はたまた遠慮し合っているのか解らない状態ですねぇ」

「牽制してるんだろ?」

「いえ、少しは解りますよ。
わたしの場合は、御主人様がいてくれて、御主人様もわたしを見てくれているから、特に問題なく過ごせてますけれど」

「いいわねー、『チェリー』ちゃんは」

「えへへ。でも、あの方の気持ちも、周りにいらっしゃる皆さんの気持ちも解ります。
御主人様も、『強過ぎる“力”』をお持ちですから」





エキサイトし過ぎて最早何を話題にしているのか解らなくなりつつある少女たちの会話
―― 会話というより自慢大会になりつつあるそれ ―― を、苦笑混じりに見ながら、





「逆に、あの方が殆ど形らしい『迫害』を受けていない方が、わたしには驚きですね」

「………そんなに、驚くようなことかしら?」

「ええ。御主人様を知っていますから」

かちゃかちゃと、オレが料理をした後片付けを始める。

「……………………………………………………」

「初めて出会ったころから、ずっとお独りで戦ってこられていましたから。
寄る辺無く、頼りも無く、ただ、独りのみで世界を相手に戦っている御主人様を、見てきましたから」

だから、と、続ける。

「何の変哲も無い、『フツウのヒト』が、どれほど恐ろしい存在であるかを、わたしたちは嫌と言うほど知っていますから」

寂しげな笑みを浮かべる。

「『知らぬが仏』とは、よく言ったものだと思います。
『彼女』が『彼』の事を知らないことが、なによりもの『彼』の『救け』になっているというのが、皮肉と言えば皮肉でしょうか」

「………皮肉、ね」

「皮肉だな」

薄く笑みを浮かべて、味付けを確かめる。

バック・バーの装飾(ディスプレイ)として配置(ディスプレイ)された画面(ディスプレイ)の中では、
オペレーターの女性が盛大に地雷を踏んだらしく、真紅の鎌を持った少女に指令室の中を追いかけ回されていた。

「………女の子って、怖いな」

「扱い方次第ですよ」

『チェリー』に言われても困るものがある。

「あーあーあーあー」

苦笑混じりにディスプレイに目をやる彼女。





この店の流儀、『カクテル・ネーム』で呼ぶべきか。

「………『真夜中の太陽(ミッドナイト・サン)』………」

「出来れば、『メリー・ビューティ』って呼んで(はぁと)」

「……………………………………………………………………………………………………」

まったく、この女は。





「それにしても………」

壊滅した指令室から場面が変わって、
男としてとてもとてもとても大事な場所に
とてもとてもとても『大変、深刻な』ダメージを受けた『彼』がディスプレイに映る。

ベッドの上で青い顔をした ―― 当然と言えば当然だが ―― 『彼』は、ボケた発言に思いっきり『叫び突っ込み』をくれながら、
平和を噛み締めているようだった。

「………平和を守るためなら、どれだけ傷付いたって惜しくはない、ねぇ」

「そういうモンじゃないの?」

彼女は言ってくるが、それは正しさと過ちを等価に含んでいる。

「ささやかな平和をささやかな幸せとして受け止められるのは、いいことだろう」

言葉を選ぶ。

「でも、それで『彼』自身が求めるべき『幸せ』は満たされるのか?」

「……………………………………………………」

苦みと痛みとをないまぜにした表情で黙り込む、『メリー・ビューティ』。

「『ヒーロー』だから、自己犠牲に生きなきゃならないって事はないだろ。
『彼』が水からの居場所を守るために戦うのも、当然と言えば当然だろう」

『チェリー』が、困ったような目でこっちを見る。

「このままだと、いずれ『壁』に打ち当たって砕けかねない」

それも、遠からぬ未来に。

「『彼』が帰るべき日常を護る『防波堤』になるのも、多分、あんたの成すべき『努め』なんじゃないかな。
少なくとも、オレはそう思う」

オレのようにならないためにも、と、続ける。

「………あなたのように?」

「そう、オレのように」

そう、オレは………護りきれず、耐えきれずに『逃げ出した』んだから。

『本来の世界(ホーム・ワールド)』での居場所を失い、この“店”の“中”に逃げ込んだ ――

自虐的な笑みを浮かべながら、オレはそれでも言わずにはいられなかった。

「オレは、オレには『チェリー』が居た。この“店”があった。
でも、『彼』には、そこまでの強固な『支え』になるものを持っていない。
砂上の楼閣で立ち尽くしているんだ」

だから、と、続ける。

「『奴』の『魂』を受け継ぐ『守護者』かもしれない。
でも、『“力”ある者』は、それだけで『そのもの』として見られなくなる。
いずれ、『彼』も思い知るだろう。
『“力”を持つ者』であるが故にバケモノ扱いされ、
『彼自身』として受け止められることも無く、
『無力な一般人』の持つ『“無”の暴力』の恐ろしさを」

「……………………………………………………」

「今は、いいかも知れない。怯える程度で済んでいるから。だけどな、『恐怖』が『現実』を侵食し始めた時………」

「その時は、私達が皆で支えるわ」

誇らしげに、微笑む『メリー・ビューティ』。

一瞬、その笑顔に見惚れ、次いで苦笑する。

番組は、エンディングテーマを流していた。





君 来る前も 遠くでは

響いていたね 聞こえない音



空を満たし 待つ時

やがてそこに 降り立つ



伝えに来るよ その言葉

忘れかけていた 場所からさえも



静かに 時 訪れ

君のために 語るよ



affirmation










「………成程、俺と同じ、『奴』と同じ轍は踏まないか」

「踏ませないし………踏まないわ」

「………信じましょうよ、御主人様。『彼』が、『SHINE』であることを」

軽く肩を竦めて、シェーカーを取り出す。

「何のカクテル? 『メリー・ビューティ』?」

『メリー・ビューティ』の言葉に、頭を振り、

「………『SHINE』」















★輝き(シャイン)『SHINE』★

ドライ・ジン………20ml
クレーム・ド・ミント(グリーン)………10ml
カルピス………10ml

シェークして、氷を入れたコリンズ・グラスに注ぎ、ソーダ水で満たす。















「……………………………………………………あるのね」

「あるんです」

『チェリー』が、悪戯っぽく笑いながらツールを流しに運び、洗いはじめる。

次回予告が入り、番組が終わって、また、コマーシャルが流れる。

「………スポンサー?」

「だけとは限らないけれどね」

苦笑混じりに返す。















「………済まなかったな、昏い話を聞かせて」

「それはお互い様」

ふふん、と、浮かべた笑みは、外見の若さから ―― 女子高生としか思えないのだ。実年齢は兎も角として ―― は
予測もつかない『艶』があった。

「御馳走様。………オゴリよね?」

当然よね? とばかりに笑みを浮かべる。

何回たかりゃ気が済むんだか、この女は。

それに対して苦笑混じりに頷き、

「今度は『吉報』を持って来い」

「もしくは『彼』でも可」

と、『チェリー』がオレに続ける。

「後、一言言わせて貰えれば」

「なあに?」

オレ専用のバー・カウンターの入口のドアを開けながら、振り返る『メリー・ビューティ』に、

「あんまり『あの技』を使わせないでくれ。
『因果律』の『消去』は、『該当世界』よりも『関連世界』に皺寄せが来るから、修復しに行くの大変なんだぞ」

「わたしのせいじゃないもーん」

………あーもぅ、このおんなは………

「………それだけだ。またな」

「ん。………ごちそうさま」

そう言って、『メリー・ビューティ』は、出て行った。















「どこの世界も、『滅日』を迎えているんでしょうか?」

「かもな」

言葉少なく答える。

それを防ぐために、オレたち『守護者(ガーディアンズ)』に連なる者が、その世界で、その時代で、
繰り返される『戦い』を繰り広げているのだろうから。










call in night 花咲く 星降るように

fall in night その名に キミを称え

一夜(ひとよ)で キミと 擦れ違える時



bright life 激しく 生命照らす

brave heart 夕闇に 黄泉を護り

凛々しく通る 暗闇の中



見えるか? 想いは『ここ』にありて

遍(あまね)く 地球(TERA)を行くキミを飾るよ

眠らない 戦者の眼差しで

空が晴れる日に



stormy night 高くと 身を打ち行き

steely mind 深くと 目を閉じ聞く

一夜(ひとよ)に キミと 交わしあえる愛



見えるか? 想いは『ここ』にありて

遍(あまね)く 世界(TERA)を行くキミに語るよ

曇らない 賢者の真名差しで

空が晴れる日に



激しく 嵐の中 人知れず

巡りだす 因果の 回転翼が

訪れる 夢幻の不可思議で

キミを連れて行くよ










「………『因果のプロペラ』………ですか」

「彼女の『世界』を担当していないから、実質的に『傍観者』していられるけど」

食器を片付けながら、

「誰もが幸せを願いながら、『滅日』と戦っているんだろう」

願わくば。

「………『彼』に、心からの笑顔を」

『彼』自身にも、『彼』の想い人にも。

願わずにはいられない。

輪廻転生の守護者として。

『戦者(せんしゃ)』として。

「………それすらも」

時の一幕に過ぎない。










closed book



後書き


『彼女』書きにくいですね。

普段は『アホ』みたいですけれど、垣間見る『過去』が重い女性ですし。

水夢さんには遠く及びませんし、当店での『セヴンスヘヴン』の独白じみた感じですけれど。

ともあれ『百万ヒット』記念として贈らせていただきます。

ではまた。

6月29日、夜。

『SHINE』を読み返しながら。

lost-wayでした。






補足

http://www.kisweb.ne.jp/personal/lost-way

当店も宜しく御贔屓に。



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