オリジナル小説 -SHINE-  ACT−XX

   


  煌々(こうこう)と輝く月の下、美しい裸身が空高く舞う。
 いや、シルエットがあたかもそう見えるだけで、彼女は確かに透き通るような白布で身を覆っていた。
 天女の羽衣のように、月明かりに照らされその布は翻るたびに宝石のように輝く。
 究極ガイスト・シン……シュラフ・ティアーズは、最適な場所を探し飛び続けた。ダンスをするような優雅さで。
 ここは日本ではない。
 本土からほど離れた洋上……ややあって上昇と飛行はようやく制止し、彼女の両の掌に薄赤い光が灯った。
 宙空の彼女を基点に、直径1kmもの光の半球が出現した。海面でちょうど境界線となっている。
 これから行う儀式を人間どもに見咎められ邪魔されぬための結界。バリアーだ。

「―――――― rrm dimrt lig delsses vans karz soot……」

 ゆっくりと目を閉じ紡がれる、人間の世に在らざる言葉……おそらく呪詛であろう。具現の為の儀式が始まる。
「……xin jeiws hoaz pthe qugjek kledewb ……」
 しなやかな指が空をなぞる。
 蟲惑的に走る十指、それが描く美しい光の軌跡が、消えずに空を彩っていく。
 ときに叩きつけるように激しく。ときに柔肌を愛撫するように優しく。

 吸い込まれるような詠唱は、やがて10分を超えた。
 描かれた軌跡は一体となり、巨大な幾何学文字で形成された魔方陣へと結ばれていく。

「hpannsh jbak rees kombng iluth suhgat ……」

「なんや、今回はえらい気合い入っとるやないの」
 結界の中、少し離れてそれを見守る三つの影。
 同じシンの三人、ことネオンに至っては欠伸を噛み殺しながら彼女の舞いを見つめていた。
「すごいのを召還するらしいよ。身の丈100mはある怪獣だってさ。なぁんか聞いたような話だなあ」
「あぁー、ウチ見たことあるでー。口から光線吐くアレやろ?」
「映画に限った事じゃないけどさ。この国は特にいろんなメディアや伝承で巨大怪獣に馴染みがあるらしいからさ、いいリアクションしそうだよね」
「ふーん。で、こないな辺鄙な場所で呼ぶわけや」
「そーゆー事。怪獣は海を渡ってゆっくり勿体つけてやってくるのがお約束、だろ?」
 シグナとネオンが可笑しそうに笑い合う。
 もちろんそれだけではなく、特殊召還には相応の場所が必要だということもある。
「戯けが。……どこまで遊べば気が済む」
 一人だけまるで乗り気ではないティークルは、今にもその場を去らんばかりの呆れぶりだった。

「お、そろそろかな?」
 再び目が開かれた時、シュラフの笑みは別人のように淫靡なものへと変わっていた。
「おいで……私のかわいい 使徒(ぼうや)
 一際力強く払われた最後の一指と共に、召還の詠唱は完了した。
 魂さえも奪う妖艶な言霊。聞く者に絶対の服従と隷属を強いる支配者の真言。
 魔方陣が90度反転した。轟音と共に、紋様が歪み、中から何かが這い出ようとしている。

「今日のはすごいわよ〜。今までで一番頑張っちゃったから」
 見守る三人に向け手を振るネオン。
 ティークルもさすがに視線を魔方陣に向ける。
「さあ、早く姿を見せて♪」
 四人の視線が魔方陣に集中する。

 期待の中、ついに巨大な怪獣がその姿を…… 
「あ……あれぇ?」
 現す事は、無かった。
 ぽん、と原色の煙が立ち込め、中から現れたのは、100mどころか1mもない怪獣のぬいぐるみだった。
 それこそ、いつも召還するぬいぐるみ爆弾よりサイズは小さい。
「おいおい、ここまで引っ張って失敗かい?」
「なあんや、期待外れやな」
「変ねぇ〜。術式は完璧だったはずなんだけど……詠唱ミスかしら」
 ぬいぐるみは意思を持ったように空中を浮遊すると、シュラフの胸に収まった。
「あらあら、甘えんぼうさんね」
「どうするんだよ、爆弾にもならないんだろ、それ? ったく、無駄な時間を過ごしたよ」
 シグナが裏拳で軽くシュラフの頭を小突く。
 途端、シュラフの胸からぬいぐるみ怪獣が飛び出した。
 
「何!」
 敵意を剥き出しにし、シグナに体当たりすると、口にエネルギーを収束させ、レーザー光線を吐き出した。
 ゴッドウォールに阻まれ霧散したが、その光線は見た目にもかなりの破壊力のものだった。
「このっ……!!」
 薙がれた腕と同時に出現した 拳銃(ハデス)が撃ち出した銃弾が、寸分の狂い無くぬいぐるみの眉間を貫いた。
「ああっ……!?」
 力無く落下し、海に叩きつけられ、ぬいぐるみの怪獣はそのまま没していった。浮いてくる事はなかった。
「あああああ〜」
「恨むなよ、シュラフ。ボクに手を出したそいつが悪いんだからさ。やれやれ、何だよあれ、変なの」
「何も殺らんでもええやん。おっとなげないの〜」
「うるさいな。何で加減して取り押さえてやらなくちゃいけないのさ」
 恨めしそうに海面を見つめるシュラフ。
「ふぇぇ〜ん、シグナちゃんの意地悪〜」
「あーもう、だから不可抗力だってのに! だいたい失敗作だったんだろ? いいじゃないか、破棄する手間省けて……ったく、たかが召還獣、条件が整えばいつでも好きなだけ呼べるだろう」
「無理よ〜、すっごく大変だったんだから〜!」
 大きく溜め息をつくと、ティークルは空中で立ち上がった。
「……くだらん。もうよかろう。シュラフ、早く結界を消せ」
「ティーちゃんまで〜」
「ところでキミはどうなんだい? 変身した上に不完全な状態で神技を使ったんだ、大分身体にきてただろ?」
「せやな。まともに戦える状態やない。ウチから離れんときー。今あの二人……特に剣士のオネーチャンが襲ってきたらたまらんやろ?」
「問題無い。リリアン・ブートはともかく、あの護衛風情はさほどの脅威ではなかろう」
「……よく言うよ」
「そうよー。私も一戦交えたけど、あの娘、侮れないわ。まだまだ発展途上だし」
 言葉は繋げているが、シュラフはずっと残念そうに海面を見たままだ。
「真田光はこの短期間に神技を三度も放っている。私が一度だけでこのザマでは面目が立たなかろう」
 結界が消え、ティークルは闇に消えていった。
 ネオンとシグナもいずこかへと消え去っていく。
「……ごめんね……はぁ〜あ」
 最後に、名残惜しそうに海面を見つめていたシュラフが、溜め息をついてその場を後にした。


 微かに、海面が揺れたように見えた。
 海底深く沈み、ほどなく消滅を迎えるはずだった召還獣。
 異変は、ごく当然のように訪れた。
 思い思いに泳いでいた魚達が、一斉に散っていく。
 
 貫かれた眉間の穴が、徐々に塞がっていき……その円らな瞳に、力強い光が灯った。
 そして、月に照らされた海面に浮かび上がったシルエットは、愛らしいぬいぐるみのものではなく――――――




ACTXX−1  





 差し向かいの少女のトレイに並んだ品を前に、俺は軽い頭痛を覚えた。
「……お前さ、ポテトだけ3個とかって身体に悪くないか?」
 しかも全部Lサイズ。それで飲み物がSサイズなのが恐ろしい。
 玲衣が嬉々として注文したのは夏季限定激辛ポテトと夏季限定冷やしポテトと普通のポテト。まあポテトだわな。
 いつもなら申し訳程度にバーガーも頼むのだが、好物の新商品を前に、『どれかを選ぶ』という”選択肢”はなかったらしい。
「ファーストフードなんて何食べたって身体によくないんだから、同じよ」
 そういうもんかあ?

 一学期の終業式を終え、六人席にちょうど六人で座って夏休みの話題に華を咲かす。
 いつものメンツに陽一が混ざるのも、すっかり慣れてきたな。
 高校三年の一学期は、本ッ当に長かった。
 というか、この3ヶ月で劇的に色んな事が起こりすぎた。一日一日の密度が恐ろしく濃かった。
 色々な人と色々な事があって……何より戦いが1年前とは比べ物にならないほど激化した。
 戦いの中で仲間との絆も深まって、俺は信頼できる戦友に何人も恵まれた。
 反面、強敵が現れて……それを倒すために強くなって。
延々と続くイタチゴッコ。先の見えない戦いに、TERAの女の子達は不安を隠せていない。
 ……戦いを終わらせる。
 そのために、究極ガイスト・シン――――――ティークル達を倒せるだけの力を身につけなくてはならない。延々と続いてきた連鎖が、そこで終わると信じて。

 そしてこの数ヶ月。確かにみんなとは仲良くなったけど、その割に、肝心の……目の前でポテトをパクついている、俺が一目惚れした少女……天野玲衣との関係は、全くと言っていいほど進展していない。
 確かにその、ドキっとするような事や、ちょっと勘違いしそうになる事も何度かあったけど、それ以上に……どんどん誤解されて、どんどん踏まれて……近くなって遠くなって。秘密を隠したまま、実距離だけが近くなって、心の距離は変わらない。
 一日が長く感じるのは、毎日のようにこんなもどかしさを感じてるせいもあるんだろう。

 ――――――そうしてるうちに、こいつらに先越される。

「ごめんね詩奈ちゃん、だから、夏休みは、最後の方にならないと遊べそうにないんだ」
「そんな〜……楽しみにしてたのに〜!!」
 いや、俺と玲衣は付き合ってさえいないんだから、とっくに先は越されてるんだよな……。
「うん、でも、部活も今年で最後だから……夏は特に大事なんだ。その代わり最後の方は全部その、デ、デートに使うから……許して? ね、詩奈ちゃん」
「よーいち〜!!」
「「「「…………」」」」

 ピリピリとした空気がまるで読めないのか、バカップル二人はほぼ満員の店内で
クソ恥ずかしい事を口にしながら加熱していく。
 その横で空気を作り上げている俺と玲衣と亜輝と友美は、この思い、どうか
届けと二人に殺気を送りまくっていた。
 怒りとともに吐かれた吐息には二酸化炭素が多く含まれる(持論)はずなのだが、殺気でも吐気でも若干の効果も今のところ見えない。
 四人分の殺気ではビクともしないのか。周りの皆さん、どうか俺たちに力を。
「じゃあじゃあ私ねー、海に行きたいなー」
「そうだね、じゃあ、8月の……18日くらいかな? あまり遅くなると、海が冷たくなっちゃうもんね」
「だいじょーぶだよ、あっつあつだもーん」
「クラゲに刺されて心臓マヒ起こしてしまえ!!」
 玲衣が叫んでも二人のイチャイチャは止まらない。
「じゃ、私、新しい水着買わないとな〜」
「新しいスクール水着ですか?」
「失礼な事言うなコニャローーーーーーーーー!!! 私は胸がないだけで体型は普通なの!!」
 ……なお厳しいじゃないか。 
 詩奈がビキニなんか着たら、肩紐がついてても垂直落下しそうな危惧を覚える。
「うん、僕も楽しみにしてるよ、詩奈ちゃんの水着」
「よーいち〜っ♪」
「しょ、正気か、陽一!?」
 思わず真顔で陽一の肩を掴んでしまう。
「だから失礼だキサマラーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「じゃあいつまでもいつまでもイチャついてんじゃねーーーーーよ!! 外の紫外線よりオメーらのほうが2百倍暑ッ苦しーんだよ! 温暖化促進すんな地球に優しくねー!!」
「いーじゃん付き合ってるんだから!!」
 いーなあ付き合ってて!!

「わ、意外といける」
 冷やしポテトを食べた感想。……マジか。冷めてボソボソになったポテトってだけじゃねーのか。
「……た、食べる?」
 じっと見つめる俺の視線に勘違いしたのか、二本つまんでこっちに向ける玲衣。
 催促したわけじゃないけど……これ、何となく”あ〜ん”されてるみたいで嬉しいぞ。
「ん、んじゃ……」
 ワニのように大口を開けそうになるのを堪え、あくまで自然に玲衣の差し出すポテトに口を近づけていったのだが。
「っ……!!」
 突然二本のポテトが軌道を変え、俺の各目玉に丁度よく突き刺さった。
「ぎにゃああああああああああああああああ!!!!」
「うわ、ごめん!! あれ……」
 不思議そうに自分の手を見つめる玲衣。
「お前なあ!! 冷やしポテトだからよかったものの、普通のポテトなら失明するところだったぞ!!」
 まさに涙目で訴える。
「いや、温度はあまり関係ないと思うけど……」
「玲衣さんいい加減にしてください! この前光さんの事半殺しにしたばっかりじゃないですか! これ以上余計な生傷こさえないでください!!」
 お前、そんな大声で。
 ……ええ、僕、女の子にしょっちゅう半殺しにされてるんです。
『あの子って……アレだよね』
『の、はずだけど……』
 うわーい周りの視線がイテーイテー。変な噂されてるんだ、きっと。
「…………」
 亜輝が額を押さえる。やっぱり俺今、周囲に変な噂されてたんだろうか。
「い、いえ、変な噂なんてされてませんから……」
「何故目を背ける?」


 店を出ても二人のイチャつきは止まらない。いや、あれで一応人目をはばかってるつもりだったのか、なおさら零距離になりやがって目に痛い。染みる。染みるなあ。決してポテトの後遺症ではなく。
「海かー、そういや去年は行かなかったしなあ」
 そういや俺がTERAに入ったのって去年の夏の終わりぐらいだったな。
「ね、ねえ詩奈、じゃあ、梓堂君と行く前に私……」
「光君は女の子と海行ったりしないのかにゃ〜?」
「「っ!!」」
 不意打ち気味の質問に玲衣と亜輝が固まる。何故玲衣が……?
 ところで、タイミング悪かったけど今友美が何か言おうとしてなかったか?
「て、TERAはどうなの? 夏休みとかってあるの?」
 やや強引に話を切り替える友美。
「ありませんよ。あ、でも玲衣さん達はローテーションで休みあると思いますけど、
私とか光さんは多分ずっと長期休みは無理ですね」
「冬も春もそうだったもんなあ……ってか、亜輝は休み取ってもいいんじゃないか? 何か大きい仕事あるのか?」
「失礼ですね! 光さんの知らない所で私は情報処理とかもしてるんです! 毎日忙しいんです! 給料泥棒じゃないんですよ!!」
「ああ……そうなんだ……ヘー」
 ヘー、とカタカナで棒読みしておく。玲衣への建前だろうが、実際諜報部はほとんど仕事無いし、亜輝は結局俺の監視(本人は恋人と言ってるけど)をしてお金を貰っているのだった。
 ホントに少し明美さんの仕事の手伝いとかオペレーターの手伝いはしてるみたいだけど。
 いっそオペレーターになればいいんじゃないか……?

 自分だけ、という事に疎外感があるのか、みるみる玲衣が不機嫌になっていく。
「ふーんだ。どうせ私は新米ですよー。っていうか光、そろそろ何やってるのか教えなさいよ」
「TERAの事に首突っ込みたいなら、まずTERAで悪評撒き散らすのやめような」
 もはや玲衣はTERAの女の子達には邪神の二つ名で畏れられている。
 どうせ新米、とか拗ねてるけど、行動にそういう奥ゆかしさは毛ほどもないのがなあ。
 気の弱い子などは玲衣と目が合っただけで泣き出してしまったそうだ。玲衣も大変だ……ほぼ自業自得だけど。
「何、玲衣、TERAで何かやらかしてるの?」
「やらかしてる、なんてもんじゃないですよ。TERAが内側から玲衣さんに滅ぼされる事も十分にありえます!!」
「何ですってー!!」
 いや、陽一とか、またまたー、って顔して苦笑いしてるけど――――――マジだぜ。
 あと半年もすれば、俺や紅梨ちゃん達4人がかりでも勝てなくなる可能性もあまりにもある。
 あの触角と俺のレイブリンガーが交錯する日を想像するとわくわくするぜ。

 詩奈が腕にしがみつくものだから、陽一も歩きづらそうにしている。
「し、詩奈ちゃん……」
「な〜に〜?」
「詩奈さんや。こんだけ人通りもあることだし、ほどほどにせんかのー」
 くそ、いつか詩奈の見てないところで、陽一の頭レイブリンガーで丸坊主にしてやる。
 俺の殺気にたじろいだ陽一が、詩奈にやんわりと注意する。
「うん、詩奈ちゃん、人がたくさんいるし、もう少しだけ、離れた方が……」
「そーですよ、どーせ抱きついたって押し付ける胸も無いのに」
 亜輝も大分毒が入ってきたがものともしない。
 言い返されるのを期待していたのか、亜輝は一瞬止まってしまった。
「ふーんだ、部活でしばらく会えなくなるんだから別にいいじゃないのさー今イチャイチャしてもー」
「あたし達の前でイチャつかなくてもいいでしょうがこれ見よがしに!!」
「……つか陽一よ、いくら部活漬けったって、毎日毎日、丸一日全部なわけじゃねーだろ?」
「今年はね、合宿が長いんだ。 2日後から学校に3日間泊り込みで、その後は
ヒマラヤに2週間遠征に行くんだ。日本にいないとさすがにデートは無理だよ」
 にこにことおっそろしいサッカー部夏休みカリキュラムを語る。
「遠征とかいう距離じゃねーだろ!!」
「あはは、今年は理事さんがサッカー部に好意的で、予算がすごく増えたらしいんだ。理事長さんがどうせ合宿するならヒマラヤなんてどうだいって言って、みんな面白そうだって合意しちゃってさ」
 酸素薄いとこで運動すれば確かに効果的だとは言うけど、専門家が管理しないと身体壊すって聞いたぞ。
「……理事長さん、可愛い少年が好みらしいわ」
「げ」
 ひそひそと耳打ちしてくる友美。み、耳打ちするだけで胸が肩に……。
 俺の記憶が確かなら、翔盟(ウチ)の理事はバーコードハゲの中年太りのオヤジだったはずだが。
 ……大丈夫なのか陽一、その理事長とヒマラヤなんてある意味密室に出かけて。
「そうだ、詩奈ちゃん、姉さんと一度出かけてみたら? 姉さん、詩奈ちゃんと出かけたがってたよ」
「う、う〜ん……ま、まあ、将来のお義姉さんと親睦を深めるのも悪くないかな……」
「し、詩奈ちゃん、それって……」
「え、えへへ」
「だから天下の公道で猿みたくイチャついてんじゃねーーーーーーー!!!」
「あー暑い熱い! 日焼け止め足んないわー!!」
「詩奈さんのくせにえへへとか言わないでください紅梨さんじゃあるまいし!! 似合わないですよ!!」
「詩奈! 親友との親睦はどうなってるの!?」
「……あーあー、恋人いない寂しい人たちのやっかみもだんだん可愛くなってきたなー」
「「「「ぐっ……!!」」」」
 まさか詩奈にこんな屈辱的なことを言われる日が来るなんて。や、やばい、膝に来た。
 ところで今一人だけひときわ悲痛な叫びが聞こえた気がするが。

「こ、光さん! 私たちも負けてはいられません! イチャつきましょう!!」
「はあ!?」
「光さ〜ん、夏休みは海に行きましょうねっ」
「……いいけど……俺ら夏休みないんだろ」
「私の水着楽しみにしてくださいねっ」
「またあのメイドに変なの着せられんなよ」
「私のお母様と一緒に出かけてみませんか?」
「勘弁しろ!!!!!」
「何で恋人っぽい会話にならないんですか!! 全部一往復もしないで終わるじゃないですか!!」
「全部パクリだからだろうが!!」
 
「光、海行くの?」
「え、まあ〜そうだな、”司令”から許可が下りたら、誰か誘って行こうかなーと……」
 まあ明美さんに許可貰おうとしたらいらないものがくっついて了承されそうだけど。
「誰かって誰よ!!」
「て、TERAの仲間しかいねーだろ……」
 悲しい事に、友美達以外にはTERAの人間しか友達いないし。
 友美が自分を無言で指差している。……そうだよな、詩奈がこれじゃ友美夏一人だもんな……。
「わ、私もTERAの人間よね」
「あ、じゃあお前も行くか?」
「…………………………も……」
「ん? どした?」
「何でもないわよこのッッッサマー馬鹿!!!!」
「さまーーーーー!?」
 玲衣に手を差し伸べたらカウンターで顔面にエルボーが入った。
 さあー一学期も終わりだー。

「ねーよーいち、どうせ行くなら少し遠くにしない? 行ける日も限られてるしさ」
「でも日帰りで行ける場所だと限られちゃうよ」
「ひ、日帰りじゃなくてもいいじゃん……泊まり、とか」
「「「「泊まり!?」」」」
 すげえ、また四人全員でハモった。
「と、泊まりって! 何考えてんのよ詩奈! 死ぬ気!?」
「何で死ぬのさーーーーーー!!」
 俺はビクビクしている陽一の首をガッチリと腕で挟み込む。
「おう陽一、俺ら友達だよな?」
「ぼ、僕はそう思ってるんだけど、いっつも真田君の方が距離を……」
「――――――二人でお泊り旅行なんてしねーよな?」
「ひっ!?」
「こらああああああああああああよーいちを脅すなあああああああああああ!!!!」
「ふざけんなよ18歳でお泊り旅行なんて! この不良娘が!!」
「異性交遊に関しては世界中で光君にだけは言われたくない!!」
 分かってるさ。18歳にもなりゃそんなの当然だって。
 でも、でも! 二人っきりでお泊り旅行なんて、もうどんな奥手な奴らだって最後まで辿り着いちまうじゃないか!!
「光さん……すいません、その想像だけは勘弁してください……」
「お前もこれを読むのだけは勘弁してくれ……」
 あまりにも非現実的な光景なので、頑張っても詩奈が上着を脱いで陽一に寄り添うくらいまでしか想像できなかった。
 それでもそのビジョンは亜輝に大ダメージを与えたらしい。

 恨めしそうに詩奈を睨む玲衣に友美が妙にわざとらしい声で提案する。
「玲衣、私と一緒に海行きましょうよ、光君も亜輝も一緒に! こんな友達甲斐のないのは放っておいて」
「そうですね、もう二人で死ぬまでイチャついててもらいましょう」
「そーだね、行こ行こ、海。光も時間作って、行くわよ」
「え、あ、ああ」
 亜輝も同意し、俺たち四人は二人と距離を取った。
 うわ、こんなあっさり玲衣と海行く事に……?
「良かったじゃない光君、これで玲衣と海行けるでしょ? 頑張りなさいよ」
 また友美が耳打ちしてくる。
 そうか、俺のためにセッティングしてくれたのか……?
 てっきり、詩奈への横恋慕の産物かと思ったぜ……へ、へへ、ちくしょう、俺って奴は。人の優しさを疑うなんて、最低だぜ。
 あまりにも詩奈目当てに見えたもんだから、へへ。
「お前……実はいい奴だな……すまん、今まで胸ばっかり自己主張するもんだからその優しさにあまり気付けなかった」
「殴っていい?」
「今までさんざ邪魔してきたじゃねーか!!!」
 このぐらいのジョークは許せよ。行く先々で関係の進展を妨害されたようなもんだ。
 ……こいつらがいなかったら進展したかと言われれば、自信は無いけど。

「ほら詩奈ちゃん、僕の事大切にしてくれるのは、すごく……すごく嬉しいんだけど、ね、みんなも」
「死んでしまえこのクソ野郎がああーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
 駄目だ、台詞を最後まで聞いてられなかった。陽一の胸倉を掴み上げる。
「よーいちをいじめるなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「あうう、じゃ、じゃあこれからみんなでカラオケにでも行こうよ。ね、真田君」
「しゃーねえなあ。ただしデュエット禁止だぜ、お前ら」
「えーーーーー!?」
 不満そうな詩奈を小突き、六人で歩いていく。

 太陽が燦々と輝いている。
「暑いな〜」
「ホンット。今年は何か猛暑になりそ」
 地球がどんなに大変な事になってても、太陽はああして変わらず輝き続ける、ってわけか――――――。




 一学期最後の”打ち上げ”も、8時を回ってお開きとなった。
「ね、ねえ、よーいち、これからさ……」
「よ〜ちゃーーーーん! 迎えに来たわよーーーーー!!」
「姉さん!?」
 何か言いかけた詩奈をタイミングよく遮ったのは、町でも我が物顔で白衣の女性、沙耶香さんだ。
 周囲の視線も我関せず、走って来てそのまま陽一に抱きついた。
「もう、8時になっても帰ってこないんだもの。姉さん、心配して衛星まで動かしちゃった」
「監視するなコニャローーーーーーーーーーーーーーー!!!」
 この人はこの人でTERAの所有物私物化してるよなあ……。
「ごめんねえ詩奈ちゃん。さ、陽ちゃん、もうすぐ合宿なんだし、帰って準備しましょ。姉さんも、ヒマラヤ用に厚手の白衣買って来たのよ」
 コート買えよお姉さん。
「ちょ、何よそれ!? おねーさん、よーいちの合宿に着いてく気なの!?」
「ええ、陽ちゃんは私とお風呂入って私と抱き合いっこしないと眠れないから。何日も合宿するならなおさらよ」
「実の姉弟で不謹慎だーーーーーーーーーー!! 合宿ついてくの禁止! よーいちも止めてよ!!」
「お前ら夜8時に街中で面白すぎる会話すんじゃねーーーーーーーーーーーーーー!!!」
 やめてくれ町の皆さん! そんな目で俺まで見ないでくれええええええ!!
「姉さん、一応男ばっかりの合宿だから、姉さん女一人じゃさすがに気まずいよ」
「大丈夫よ、今突貫工事で頂上にコテージ作らせてるから」
 ひいいいいいいいいヒマラヤの美観がああああああああああ
 どんな建築技術を駆使すれば突貫で標高数千メートルの場所にコテージを……!?

「じゃ、詩奈ちゃん、ま、またね……」
「よーいちーーーーーーー!!」
「詩奈ちゃん、合宿から帰ってきたら海行きましょうねー♪」
 沙耶香さんにひきづられ強制帰宅の陽一。
 ……二人っきりの旅行、邪魔するまでもなく無理っぽいな……。

「うう、友美……今日は飲も……私の家で」
「し、仕方無いわね……じゃ、光君達も、またね。海行く日決まったら教えて」
「おい、バス停まで送るって」
「大丈夫よ、光君に貰った防犯グッズ、ちゃんと持ってるし」
 詩奈の肩を支えながら去っていく友美の背中が、妙に遠く感じた。

「防犯グッズって?」
「TERA職員に支給されてる防犯グッズ、俺の分あいつにやったんだ。ほら、あいつ俺達から離れた途端ナンパされっだろ」
 俺がいる時は一応側に男がいるせいかナンパの類はないが、一人になったりすると蟻みたく男が寄って来る。
 帰り道、友美の声が聞こえたんで戻ってみたら、強引に友美の手を引こうとした男がいて、慌ててぶっ飛ばした事もあった。
 ”友達”の女の子相手に過保護すぎるかもしれないけど、やっぱ放っておけない。陽一みたくしっかりした奴ならともかく、あんな誰でもいいような薄っぺらい連中に、友美が困らされるのを見過ごすなんて出来ない。
「えー! そんなの私支給されてないわよ!?」
「お前素手でプロレスラー殺せるだろ……」
 言ってからはっとした。
 俺が何で防犯具が必要ないのかツッコまれたらどうしようかと思ったが……玲衣はそこまで深く考えなかったようだ。
 問題はその防犯具を作ったのが、しれっとギロチンとかこさえる幼女だという事なのだが。


 基地へのトランスポーターを前に、玲衣は足を引っ込めたり出したりしている。
「どうした玲衣? 早く入れよ」
 まるで初めて乗る時、エスカレーターに足を踏み出すのを躊躇する子供のようだ。
 二人で強引に中に押し入れる。
「な、慣れないのよこれ。……でも、瞬間移動なんて、すごいよね。人間って、いくとこまで行っちゃうのかな」
「行くとこって?」
「宇宙の果て……とか、太陽系でまだ行ってない星とか」
 難しい顔で悩む玲衣に苦笑する。
「まだどころか、月以外の場所には人間はどこにも行ってねーよ」
「トランスポーターは携帯電話の電波と同じで、近くに中継地点がない場所には座標を固定できないんです。だから今、人類が辿り着けない場所には残念ながらトランスポーターでも行けないんですよ」
「そっか」

 あの激闘から一週間経った今も、TERAはやや慌しい。
 ネレイドの存在についてはやっぱりどれだけ調べても主張しても皆の記憶、映像の記録からさえも完全に消え去っていた。
 深く考えるのはやめたが、俺の中で神技への恐怖感は着実に生まれてきている……。

 俺達の高校は夏休みに入ったとはいえ、亜輝の言った通りTERAに夏休みは無い。
 ガイストはそんな事お構い無しなのだから。
 もっとも、この7日で現れたのはBレベル以下のガイストが二回だけ。避難の必要も無く一般クライマーの女の子達が撃破した。
 正直俺達四人はまだ出撃するには少ししんどい状態だったので、これだけは何とか助かっていた。
 昔は週2回出現なんてものすごいスパンだったんだけど、ホントに感覚が麻痺してきてるんだな。

 亜輝と一緒に司令室に入る。玲衣はこれから一仕事あるそうだ。
 いろいろやらかしてるせいか居住区管理班は玲衣を怖がって仕事をあまり任せようとしたがらないのだが、何もしないと不安なのだろう、玲衣は強引に仕事をしようとし、また変に怖がられたりする。
 何とか仲良くなって欲しいんだけどなあ。

「お兄ちゃ〜んっ!!」
 扉が開くと同時に小さな少女が飛び込んでくる。
 だが、亜輝が俺の前に立ちはだかりそれを受け止めた。
「残念でした、蛍ちゃん。私ですッッッ!!」
「ふぇ!?」
「あっちでもこっちでも兄弟姉妹でふしだらな事しないでください!!」
「な、何の事か知りませんけど、私とお兄ちゃんはふしだらじゃありません!」
「「〜!!」」
 オペレーターの人たちは、何やら忙しそうにしながらも二人のやりとりを微笑ましく見守っていた。
 が、しかし、見せ掛けの緊張感すら無い駄目大人もこの司令室にはいるのだ。
「あー、毎日毎日あっついわねー!!!」
 ファイルのバインダーでぱたぱたとせわしなく扇いでいる明美さん。
 胸元を過剰なまでに開放しているのが非常に目のやり場に困るのだが、そんな事よりも。
「あんた、毎日毎日こんな冷房がきいたとこで大名商売やってて、どっからそういう台詞が出て来るんだよ」
「気分の問題よ。風鈴と同じくらい夏の風物詩じゃない? ひたすら扇いでる人」
 ……暑くもないのに気分で扇いでたのか。
「あんたにつっこんでたら身体がいくつあっても足りねぇな…………」
「あら、やんわりとセクハラ?」
「…………」
 本当、人生楽しそうだな、この人…………。
 いや、でも、いるっちゃいるけどさあ、学校でも。これ見よがしにやたらと扇いでるせいで、周りが余計熱く感じる奴。
「なんかさー、こう、夏は暑い! 冬は寒い! って実感したくなる時ってない? ずっと暑かったり寒かったりするとそれはそれでやなんだけどさー、
あんまり快適に1年過ごしても日本に住んでるって感じしなくない?」
「あー、それは……何となく分かるかも」
 確かに、夏なら1日汗だくでうだるぐらいの熱気に包まれて過ごす日ってのもあってもいいとは思うな。毎日はやだけど。
「ここんとこ大したガイストも出ないし、平和よねー。夏休み中はもう出ないで欲しいわ」
「年中夏休みのくせによく言うぜ」
「シンもあれ以来、なりを潜めていますね」
 亜輝との小競り合いに決着が着いたのか、席に戻ると、ノートパソコンを広げて何やら打ち始めた蛍ちゃん。
 この子の場合、暇つぶしでもそこらのプログラマーが卒倒するようなもん作っちゃうからなぁ。
 まして今はシンパシックフォームっていう切り札まである。
「んな事言って、油断してるとまた前みたく3日連続とか1日に2回とか出るかもしれないぞ。特にシンはちゃんと警戒してくれよな」
 はーい、とオペレーター達からまばらな返事。
 はっきり言ってあいつら自分たちが楽しむためにガイストを繰り出してきてるんだから、油断してるといきなりとんでもない戦力で攻めてきかねない。
「もう敵わないのが分かっててBレベルのガイストとか送り込んでくるのがいい証拠だぜ。遊んでるんだろ、俺達で」
「そうでもないかもしれないわよ。1から100まで全部自分の思い通りにならないのかもしれないでしょ? Sレベルのガイストは1度に7体までしか作れないとか、強ければ強いほど思い通りにできないとか。どうやって作っているのか知らないけど、制約があるのかもしれないわ。じゃなかったら、一気にSレベルガイスト100体とか作れば地球滅ぼせるわけだし」
 そっか……ネレイドは確かにシグナやティークルを倒すとか言っていた。
 性格付け……? みたいなものが思ったより上手くいったって、他でもないシグナ自身が驚いてたし。
 作った本人に完全服従ってわけじゃないんだよな、あいつらも。強いほど制御が難しいってのも納得だ。
 ……だけど、その地球を滅ぼせる100体のSレベルガイストを一度に作れないなんて保証はない。
 一度に数体しか作れないにしても、その”一度”は一日程度の制限での話なのかもしれない。
 楽観的にはなれないぜ……。

 朝から陰気な思考回路に辟易していると、ほえほえと平和な声が聞こえてきた。
「でも、せっかく夏休みになったんだし、ちょっとくらい遊びたいよね」
 ん、と気合いを入れてトランプを2枚投げる。スペードとダイヤのキングだ。
「旅行にでも行きたいなぁ……ね、煌羅?」
「いいねー、旅行っ! お姉ちゃんと二人きり♪ 山とか無人島とか誰もいない所ならサイコー」
「すごく鳥肌が立ってきたよ」
「こっちでも旅行です、か……っ!?」
 ジョーカーを引いたらしい。手持ちのカードを必死にかき混ぜる。
「……あがった」
「あんた無表情過ぎるのよ!! ばば抜きでポーカーフェイスなんて邪道よ邪道!!」
「あんたは顔に出すぎ。姉はもっと出すぎ」
「きーーーーーーー!! この能面!!」
「でも確かに紅梨さんは幼稚園児並に顔に出ますよ……もう少し隠さないと」
「そ、そんな事ないよー! っていうか、亜輝ちゃん、ズルしてるんじゃないの!?」
「読んでるなら私が1位になるはずじゃないですか! 私はそういう不正はしません!!」
「……仮に読んでも関係ない。皇流の拳には心を無にする極意がある」
「その極意をトランプに使ってんじゃないわよ」
 いつからいたのか。紅梨ちゃんと煌羅と閃華と、いつの間に混ざったのか亜輝はばば抜きをしていた。……雀卓で。
 雀卓で何故トランプ……いやそれよりここ、司令室ですよね。
 ……司令室なのに……雀卓はあるわ、ハンモックはあるわ、メインモニター使って今公開してるホワイトピアニシモの夏休み劇場版上映会してるわ、えーとえーと後……。
 何、ここ。
 って、よく見りゃ誰も仕事してねえ! 忙しそうに見えたのに、騙された!! 警戒してよ皆さーーーーーん!!
 
 幼いアニメ声がスピーカーから響く。
 何か、あのアニメの不幸な主人公の女の子、他人に思えないんだよなあ……。いっつも一生懸命戦ってるし。
「この映画、もしかして海賊版ってヤツか?」
「ちーがーうーわーよー。TERA(ウチ)の特権でフィルム回してもらったの。ほら、忙しくて見たい映画も見れないと隊員の精神衛生上もよくないじゃない?」
「普通に映画くれー行けるだろーが!! な、何て事に特権……!!」
 ピシリとスーツに身を包んだ地球防衛組織の最高司令官が、特権をかざしてアニメ映画の徴収。うわーははは、こうして俺達が死闘の果てに築き上げてきたTERAへの信頼がちまちまと瓦解していく。

「ね、ねぇ……光君、夏休みはどこかに行く予定は立ててるの? 学校の友達とか」
 不意に横側から覗き込まれ思わずビクリとする。不安げな表情で紅梨ちゃんが尋ねてきた。
「どうかなー。一応亜輝とかと今日話はしたんだけど、な」
「そうです。詩奈さんと陽一さんが二人っきりでお泊り旅行に行くとか言っているのに、私たちだって負けられないじゃないですか! 恋人として!!」
 お泊りと聞いて、紅梨ちゃんがぼっと赤面する。
「そ、それはいいから光くん、あのね……」
「何でみんなスルーしようとするんですか!!」
 意識してスルーしているのか本当に無意識なのか、こんな事ばかりなので亜輝の怒りは溜まる一方だ。
「その、旅行……行かない? ふた…………」
「みんなでは無理だろ。俺達がTERA本部空けるわけにもいかないし」
「みんなじゃなくてぇ……」
 何故か小声だった紅梨ちゃんの提案をやんわりと却下しようとしたら、明美さんと目が合ってしまった。
「…………」
「何?……空けるわけにも?」
「……くっ……」
 こいつは……空ける……このアホ司令は……。
 自分が楽しむ為なら躊躇なくメインスタッフ全て出払わせる。
 前科もあるしな。
 何故か頬を膨らませると、紅梨ちゃんはうって変わって大声になった。
「じゃあみんなでいいから行こうよっ!! ……夏休み2ヶ月もあって退屈だよー」
「だからみんなでは……ってか、いいよなぁ大学生は……無駄に休み沢山あって……」
 かくいう俺も全国の受験生を尻目にエスカレーター進学が決まってるから高3の夏休みでも余裕綽々だ。
 受験勉強に追われるのとガイストとの戦いに追われる方、どっちが……って聞かれたら、考えるまでもなく前者だけど。

「…………先輩、私ともどこかに行って」
「え?」
「夏休み……退屈だから」
 気が付くと全勝のまま終わったらしい閃華が袖を引っ張っていた。
 本当に暇なのかどうか、夏休みに入るちょっと前から一日のメールの量が倍に増えたもんなあ、こいつ……。
 内容は全部1行なんだけど。
「んな!! 何言ってるのよあんたーーー!! あたしだって暇なのよっ!! あんたはいつもみたく特訓でもしてりゃいいでしょ!?」
「……あんたは姉と二人きりがいいって言った」
「そ、それは…………」
 俺の袖を掴んでいる手をちょっぷで振り払う紅梨ちゃん。
「ひ、一人だけはずるいよぉ」
 そのか細い声は、ヒートアップする二人の口論にかき消された。
「だいたい遊んでる暇なんてないでしょ、あんたは! 修行してさっさと私らの足引っ張らないようにしなさいよね!!」
「先輩にはまだ全然及ばないけど、あんたはとっくに抜いた」
「見栄張んじゃないわよ! あんたが私に勝ってるのなんて乳のデカさだけでしょーが!!」
「……その差は女にとってとてつもなく大きい」
「何よだんだん俗っぽくなってきてーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!??」
「仲いいよねー、あの二人ー」
「そうかあ?」
 話の論点がずれてってるし。

「わーったわよ! じゃあみんなで行けばいいんでしょみんなで! んで私お姉ちゃん連れていつの間にかドロンするから!!」
「やっぱみんなでなのかあ?」
「そうですね、み、みんなで行くべきです……。チャンスは現地調達と言う事で……」
 今度は無視されないよう、俺の目の前で腕組みして亜輝が頷く。
「……? 現地調達? 何をだ?」
「し、知りません!」
 何故……!?
「ふぇ……どんどん話が進んでる……。おにいちゃん、私も行きたいです、海……」
「蛍ちゃんも?」
「うー、やーっぱ慣れないなあ、そのお兄ちゃんての……」
 腕をぽりぽりと掻く煌羅。
「お前が何で恥ずかしがんだよ」
「何かエロい」
「何でだよ!! お前だって紅梨ちゃんの事お姉ちゃんって呼んでるだろ!!」
「だって私はお姉ちゃんを常にエロい目で見てるもの」
 断言かよ……。おっかねえ。……あ、紅梨ちゃんがエクトプラズム吐いてる。
 かくいう俺もまだ全然慣れないんだけどな。

「ちょっとちょっと、みんなで旅行なんて初耳よ!?」
 まあ初耳だろうなぁ…………。俺もだ。
 リモコンを操作し、上のオペレーターシートからひなたさんも降りてきた。
 ピアニシモ観てたのこの人か。って、うわ、丁度変身シーンで裸の所で一時停止してやがる。やめれ。
「旅行行くんなら私も行くわよ。保護者がいなきゃどうにもならないでしょう」
 鼻息も荒くどんと胸を叩くひなたさん。
 確かに……明美さんじゃ保護者どころか一番やんちゃな事してくれそうで怖いからな。

「仕方ねえか……。でも、ま、日帰りならみんなでも何とか……」
 しばらく思案していた明美さんが、ぱん、と手を打ち鳴らし張り切って提案した。
「どうせ行くならさ、遠くに泊りがけで行かない?」
「―――――――――はい?」
「日帰りなんてつまらないわよ。そうね〜、亜輝、プライベートビーチあんたの実家でいくつか囲ってるでしょ?」
 ……今、いくつかとか言ったかこの人。ああいや違う! じゃなくて……
「みんなでって言ってんだぞ!? いくらなんでも日帰りが限界だろ!!」 
「何で?」
 うわあーい司令自ら真顔でー。
「あ、最近掘り出し物の島を購入したらしいんですけど、モニターがてらどうですか? いずれは一般公開ですけど、今は身内専用(プライベート)ですから」
「いいじゃな〜い? よ〜し、じゃ、行きたい子集まれ〜! 予定立てるわよ〜!!」
「うそーん」
 気が付いたら、みんな既にスケジュールとか組み始めている。
「……お、おい……決まりなわけ? 泊まりで?」
 返事が無い。きゃいきゃいはしゃぐ声しか聞こえない。
「じゃあちょっと短いけど、3泊で」
 ひいいいいいいいいレベルアップーーーーーーーーーーーー!!
 もう、拒否権なんて、行使できる段階は3段飛ばしで過ぎ去ってしまっていたのだった。

 つーか、こいつの家のリゾートのモニター……何だろ、すっげえ危険なデジャブを感じるんだよな……。
「……はは、ピアニシモ続き見よ……」
 リモコンを操作し、再生する。場面は変身シーンから戦闘シーンへと。

『少しは私の話も聞いてよ〜!!』
 ヒロインの叫びに、何故か強く共感を覚えた。




あとがき

新作 THE BURNING EDEN(SHINE旅行のDC版)の1話です。
本編と整合性を持たせようとしたらもう原型をとどめない事に……。