「あら、どうしたの真田君、不思議な顔して」
「あ、いや、蛍ちゃんが携帯いいのにしてくれるって言うから頼んで、
今戻ってきたんですよ。……そしたら、何でか蛍ちゃんが一番最初に
登録されてて。普通、登録した順に並んでるでしょ? カナ順でもないし……」
携帯を手渡すと、榊月さんはぶるぶると震え始めた。
バイブまで強力になった……わけじゃあないよなぁ。
「あの、榊月さん……」
「っきゃー! かーわいいー!! ねぇ、そう思わない!? メチャメチャ健気じゃない、
このー!!」
「な、な、何だよいきなり!!」
「分からないの? 携帯のメモリの一番最初に自分を登録する! 『私をあなたの一番に
してください』っていう意思表示に決まってるじゃない!! あぁ〜、も、蛍ちゃんが
どんな顔して作業してたか手に取るように分かるわ」
ガンガンとデスクをぶっ叩いてテンションを沸騰させていくアホ司令。
「壊れる。壊れるてあんた」
デスクがね。この人自身はとっくに壊れまくってるから。
「きっとやろうかやるまいか迷って迷って、あの珠のようなお肌をピンク色に染めて、
震える指で自分の名前を登録して……そ、そしてぎゅっと目を瞑って登録順を変えて……!
脱力してへたり込むんだけど、作業が終わった後もドキドキが静まらなくて、そっと自分の
手を下腹部に滑らせていって……」
「あんた病院行った方いいぞ……」
……でもちょっと想像してしまった。やばい。
「ん? 想像したわね?」
全てを見透かしたように上目遣いで覗き込んでくる司令。油断ならん。
「鋭い……って、いやいや、してねーっつーの。一緒にすんな」
蛍ちゃんもそういう事するのかな……いや、いずれはするよな、うーん。
あの幼い顔で……いやいや、幼くなくなるだろうけど、いやしかし、うーむ……
「蛍ちゃんがなぁ……」
「……ふぇ? 私ですか?」
「っぎゃあああああああああしてませーーーーーーーーん!!!!!」
気がついたら蛍ちゃんが真後ろでふぇっていた。
思わず敬語で土下座してしまう。
「ど、ど、どこから聞いてたの、蛍ちゃん!!」
最悪の事態を想像してしまう。手を―――のくだりから聞いてしまっていたら、
『手を滑らせていったらどうなるのかな……』などと幼い好奇心を膨らませて
大人への階段を昇ってしまうに違いない。やばい、それはやばい…………
ってちょ、ちょっと待て俺!! 何だこの思考回路は!?
「ああああ、な、何か脳味噌が司令っぽく……せ、洗脳されてる!?」
「あの……」
苦悩する俺を心配そうに見つめてくる。この純な瞳を裏切ってはいけない。
心に楔を打ち込み、平静を装って視線を合わせる。
「あ、いや、ごめん、どこから聞いちゃってた?」
うはは、超不自然。
「え、あの、病院行った方いいぞ、から……」
よ、よかったぁ。最悪の事態だけは免れた。
「けど、それがどうしたんですか?」
「ああ、いやいや、何でもないんだ。榊月さん、ちょっと病院行った方がいいんじゃないかと
思ってさ。蛍ちゃんもそう思うだろ?」
がっしと蛍ちゃんの肩を掴む。びくりと身体を震わせたが、にっこりと
微笑んでくれた。
「あ、は、はい! 私も司令は病院行った方がいいと思います!!
難しいですけど、脳手術受けた方がいいと思います!!」
「そうだよなー! うんうん、蛍ちゃんはいい子だー!!」
「はい! いつか司令を入院させましょうね!!」
「ふふ……蛍ちゃん……舞い上がってるとはいえ、ちょい傷つくわぁ……」
「!!」
馬鹿女の悪口に花を咲かせていると、急にレトロなアラームが司令室に響き始めた。
瞬時に張り詰めた空気になる。談笑していたオペレーター達が素早く持ち場に着いた。
「え、な、何だよこれ、もしかして……」
「ええ。ガイストよ。ガイスト出現の警報。参ったわね、昨日出たばっかりなのに」
「な、何!?」
「サーチ結果出ました! M県ポイントD、レベルD……Hタイプです」
「Dか。なら問題ないわね。紅梨に行ってもらいましょうか」
「……紅梨は昨日の戦闘の後体調を崩しているらしく……煌羅はまだ実戦で
戦えるほどではないですし、多分拒否するでしょう」
「はぁ……仕方ないわね。いいわ。Dだし、選抜2で出撃させて」
「はい!」
目まぐるしく行動していく周囲に圧倒され、俺は呆然と立ち尽くしていた。
「真田君はここで見学。さすがにいきなり実戦は無理でしょうからね」
「だから俺は入るなんて――――」
モニターにガイストの映像が映し出される。……昨日見た奴と全然似てない。
むしろ、人間みたいなフォルム……ガイストって、一体何なんだ。
「…………」
さっきまでの馬鹿ふざけが嘘のように真面目な顔をしている榊月さん。
戦闘指揮中もダラけてる、って話だったけど、やっぱ司令だよな。
「どうしたんだよ、浮かない顔して。レベルDってのは手強いのか?」
「いいえ、戦闘力で言えば下から3番目に弱いわ。問題はないはず。
けど、何でかしら……嫌な予感がするのよ」
モニターの向こうでは、ようやくクライマーの女の子達が戦場に到着
していた。それぞれ武器を展開し、散開する。
「近距離攻撃は避けて! バスターユニット斉射!!」
嫌な予感、という奴が拭いきれないのか、ロングレンジからの攻撃を
指示する明美さん。
ガイストを取り囲んだ女の子達が、一斉に武器を構える。
無数の弾丸が、中心にいるガイスト目掛け叩き込まれていった。
「おお、す、すげえ……」
映画みたいな迫力に息を飲む。
けどこれは現実。モニター越しに映っているのは、今の俺達の
現実なんだ。
煙が晴れ、ガイストが姿を見せる。
あれだけの集中砲火を浴びて、その身体には傷一つついていなかった。
いや、それどころか、所々が禍々しく変化しているように見える。
「おい、何だよ。全然効いてねぇんじゃないのか、あれ」
「おかしいわね……。レベルDのガイストじゃ、コナゴナのはずよ」
「ガイストのステータスが、急激に増加しました!!
先ほどとは比べものになりません!」
モニター近くに座っているオペレーターの子が叫ぶ。
「比べものに……って、ちょっと、どうなってるのよ」
「最高レベル、A―――今まで、こんな、こんなの……」
「何ですって!?」
「……変身……進化? ガイストが!?」
立ち尽くしている女の子達を尻目に、悠然とガイストは歩き出した。
「殺されるわ! 早く撤退させて!!」