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オリジナル小説 -SHINE-



 ヴァーチャルのガイストを全体撃破する。
 おそらくは当分破られる事は無いであろう、ほぼパーフェクトな得点が空間に表示され、可愛い声が部屋に響いた。
『終了です。光さん、レベルA2オールクリアーです!』
「おーし、大分慣れてきたなー。次はいっちょA3いってみっか」
 汗だくではあるものの、まだまだ余裕のありそうな光が、力いっぱい伸びをする。
『ふぇ、だ、駄目です、今日もう休まないと! やりすぎはよくないですよ?』
「え、俺はまだ大丈夫なんだけどなあ……」
 ガラスの向こうのコントロールルームでは、蛍の肩に手を置く者の姿があった。
『ふふ、蛍ちゃん。若いうちは、やりすぎはむしろ身体にいいのよ。我慢する方が余程身体によくないわ。男の子がもっとやりたいって言ってるんだから、女の子のあなたはそれに応えてあげなくちゃね』
『ふぇ……?』
「ぬあああああああああ! 上がる上がる!! それ以上喋んなアホ女!!!!」
 蛮声を上げながらコントロールルームに辿り着くと、既に明美の姿は無かった。
 憎々しげに舌打ちすると、ハーフパンツの裾を引っ張られる。
「あの、私は何に応えればいいんでしょうか……?」
「え、あ、いや、その」
「私に出来る事なら何でもしますからっ。遠慮なく言ってくださいね」
 純真無垢な瞳に心まで射抜かれる。自分は何も悪くないのに、追い詰められた犯罪者のような心境になってきた。遠慮しなければ、国際指名手配だ。
「何でもしますって言ってるわよー」
「!?」
 しかもいなくなったと思っていた明美が、出入り口から頭半分だけ出し奇怪な笑い声を上げている。
「ささ光君、もう一汗かいちゃいなさい」
「懲りねえなテメェはーーーーーーーーーーーー!!」
 全力疾走しドアに詰め寄るが、その頃明美の姿は、廊下の右を見回しても左を見回しても、影さえなかった。
「相変わらず足の速さクライマー級だな、あの馬鹿司令……」
 蛍への言い訳に四苦八苦していると、周りの目を気にするように、こそこそと、女の子が近寄ってきた。
「えと、お疲れ様、光様」
「あ、葉月さん。サンキュ。あと、何回も言ってるけど、その”様”って……葉月さんの方が年上だろ」
「主従関係に、歳は関係ないですから」
「しゅ…………はい?」
 綾城葉月は、TERAのクライマーとしては最古参の一人だった。
 光も入隊の折には……まあ、いろいろと世話になっており、葉月もまた、危ない所を初出撃した光に助けられている。
 葉月も光の存在で吹っ切れた一人らしく、最近は着実に実力を開花させ始め、専用の武装も持たされるまでになった。紅梨ほどではないにしろ、頼りになる一人といえよう。
 ただ、葉月もここに相応しいというか、かなり変わった性格の持ち主だった。
 行き過ぎなほどに奉仕癖がある。初戦闘の後も、助けてもらった礼と称し、語るのも恥ずかしい過剰サービスを受け、トラウマになりそうになったのを覚えている。
 美少女でスタイルもよく性格もいいと、非の打ち所がないように見えて実はあった、という所か。
 明美に言わせると極度のMという事だが(それを知っていて光が初めてTERAに来た時案内役をさせたらしい)、それはさすがに失礼だろう、過保護なだけだ。……相変わらず光の考えは甘かった。
 呼び方も、今は”様”付けだ。最初は真田さんと呼ばれていたのだが、年上の人に真田さんと呼ばれるのは変な感じがするから光でいい、そう念を押すと今度は光様と呼び始めたのだ。逆にグレードが2段飛ばしくらいで上がった気がする。
「あああの、ふ、拭きますね、汗」
「あ、いいよ、自分でやるから」
 この人は本当に世話好きだ。それは別に結構な事だろうが、妙に潤んだ目で見つめられたり、悩ましげな吐息を吐かれたり、っていうか汗を拭いてる途中で息を荒げられたりするので、素直にお願いしますとは言えないのだ。
「う、動くと拭けません……」
「ああ、もう、いいから!!」
 あまりにも食い下がるので、少し強く振り払ってしまう。
 瞬間、頭が冷えた光は慌てて謝った。
「ごめん、怒るつもりじゃ……」
 気を悪くするかと思われたが、何故か、逆に葉月は嬉しそうに顔を近づけてくる。
「私、悪い子ですか……?」
「何でそんな夢見心地な目になってんの!?」
「悪い子には、おしおき、ですよね…………」
「うわわわわ、ささささ、さいならーーーー!!!」
 脱兎の如く駆け出す光。残された葉月は残念そうにそれを見送った。
「葉月さん、女の子が男の子に応える、ってどうすればいいんですか?」
 先ほどの明美の戯言をまだ引きずっていたのか、蛍が難しそうに考え込んでいる。
「……尽くしてあげればいいと思います。女の子が男の子に応えられるのは、それだけです」
「はぁ……」
 ますます蛍は分からなくなった。しかし、そんな蛍を見て、葉月が『役に立とうとする事ですよ』
と微笑んだので、多少要領は得たようだ。
 両者の考えには、グランドキャニオンより大きな開きがありそうだが。

 入れ替わりでVBに入ろうとしていた紅梨と、それを止めようとしていた煌羅も逃げて行く光を見送る。
 よほど焦っていたのか、自分達には気付かなかったようだ。
 姉妹が光を見送る目は、まさに対照的だった。
「光君、また訓練頑張ってたんだね」
「うっわ、ウザ〜」
「何で? 頑張ってる男の子って、素敵だと思うけどな〜」
「違うわよ。あーやって女受けよくしよーとしてるとこ。訓練なんてめんどいとか思ってるくせに、どうせ女にちやほやされんのが嬉しくてやってんでしょ、毎日毎日」
「そんな事無いよ。光君はみんなのために頑張ってるんだよ?」
「お姉ちゃん、いい方いい方に考えすぎよ。少しは疑う事覚えてっていつも言ってるでしょ。世の中、ホントにいい奴なんてそういやしないんだから。こんな女ばっかりのトコに男一人だけって事に、もう少し危機感持たないと」
 一気に捲し立てる煌羅に、紅梨は頬を膨らませる。
「……私だって世の中のいい事と悪い事くらい分かるよ。煌羅は、光君の事になるとすごくムキになるように見えるよ?」
「ち、違うわよ!」
 踵を返して、逃げるように走り去っていく煌羅。
 今日こそ一緒に訓練しようと思っていたのだが……。紅梨は溜め息をつくと、一人、トレーニングルームに足を踏み入れた。

 今度は蛍ではなく、別の、やや年上の研究員がサポートを担当する。
「どうする? レベル、Bくらい? もう紅梨ちゃんなら、Aでもいいと思うけど」
「う〜ん、でも、一応Bでお願いします。やっぱり、不安だし」
「別に死ぬわけじゃないんだけどなあ……まあいいわ、始めましょう」
「はーい」
 重厚な扉のロック音を合図に、リボンを解く。
 ガイストが、真正面に出現し、紅梨の頬を汗が伝った。