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オリジナル小説 -SHINE-




BEGINNING HINATA




「ひなたさんって、勉強教えるの上手いよな。先生とか目指してたの?」
 いつか、光君にそんな事を言われた事があった。
 きっかけは忘れたけど、出撃回数が増えて、授業に遅れて大変な彼に、私が勉強を教えてあげる事になって……しばらくたった日だった。
「そんな事言われたの初めてよ。……うーん、そうね……光君、最初に私の声聞いた時、なんて思った?」
「それは……その、気を悪くするかもしれないけど、何か、アニメのキャラクターみたいだなって。声が」
「そうでしょ? 私、声優目指してたのよ」
「ああ……」
「ふふ、驚かないのね」
「つか、言われても納得するしな」
 教科書通りの基本問題に悪戦苦闘するその姿は、地球を守るために、化け物相手に人智の及ばないような戦いを繰り広げる超人のものではなく、ごく普通の高校生の男の子のもので、自然と笑みがこぼれた。
 嬉しかったんだと思う。
 彼が入るまでのTERAは、お世辞にも正常に機能しているとは言えなくて、いつでも余裕がなくて切羽詰っていた。彼が未完成だったパズルの最後のピースだったわけだけれど……その1ピースはきっと、1000ピースパズルの中の600ピースくらいの大きさだった。
「でも安心してるのよ。本当は私も自信なかったもの。高校の頃の勉強、ほとんど忘れちゃってるんじゃないかなって」
「たった4年前の事だろ? そんな事言ったら俺、小学校で勉強した事全部忘れっちまってる事になる」
「それは今君がまだ学生だからよ。学校からちょっとでも離れちゃうとね、あっという間よ、特に高校で勉強した事なんか。私、高校の頃特進だったから、普通の人よりガリ勉してたし、それで何とか覚えてるようなものよ」
 聞きなれない単語だったらしく、特進は特別進学コースの略だと教えた。
 国立大学を目指すためにカリキュラムからして別格なお勉強学生のためのコース。
「だからね、勇気がいったわよ、進路。学校側は進学率にこだわるから、パーセンテージを下げたくなくて、とにかくどこでもいいから国立大に入れようって躍起になるの。就職は許されなかったし、まして、声優なんて職業進路に書いたの、あのコース始まって私くらいじゃないかしら。おかしいでしょ? 進路調査でね、四角の空欄の後ろには『大学』って書いてるのに、私、その空欄の中に『声優』って書いたのよ」
 受け持ちは元より学年の教師全員によってたかって嫌味を言われ、お説教をされ、洗脳紛いに進路変更を促され、クラスメイトからは呆れられ。理解のある両親だけは味方だったけど、本当に四面楚歌だった最後の1年。
「おかしくなんてないだろ。やりたい事やる事の何が駄目なんだ? その特進ってコースに入ったら絶対いい大学に行かなきゃいけないなんて、そうやって将来を限定しちまう方がおかしいよ。可能性をむざむざ潰すなんて、学校の意味が無い」
「……翔盟はエスカレーターだからそういう危機感が無いだけ。そういう高校もいくらでもあるって事よ」
「でもさ、ガリ勉していい大学入ったって、いい会社に入れる保障があるわけじゃないし」
「少なくても確率は上がるでしょう? そのためのいい大学よ」
「さっきひなたさん言っただろ。学生じゃなくなったら、すぐに勉強なんて忘れていくって。それが分かってて1%2%せこせこ保身を固めるよりは、やりたい事を見つける事の方がよっぽど有意義だと思うけどな」
「お母さんと同じ事言ってる」
「え、嘘」
 露骨に嫌そうな顔をする。若さが無いって思われてると思ってるのかな。
 でも、そういうチャレンジ精神を前面に出せる事が若さの証よね、逆に。
 彼と同じ歳の時に私が、そうやって世の中に反発するように進路を押し切ったように。
「ま、そこまでして選んだ進路は夢破れたわけだけれどね。お陰でこの歳になるまで彼氏の一人も作れなかったわ」
「へぇ、ひなたさんなら彼氏なんていくらでも作れそうだけどな」
 狙って言ってるのかしら。
 でも、プレイボーイというには不器用すぎる、堅い子だから。司令も彼がこんな性格だって見抜いていたから、心配も無くこの組織に入れたんだろう。
「そういう光君はどうなの? 彼女いるんでしょ、もちろん」
「いや、俺も今まで彼女いなかったよ。つい最近、気になる奴はできたんだけど」
「……それって……TERAの子?」
「いや、偶然会ったやつ。俺と同じ学校だった」
「そう……」
 ま、こんなものよね。何、ドキドキしてたんだろう。
 自分が彼氏いないって言う話題の切り出しは、少し強引な気もしたけど……分かりきってた事じゃない。
 もてないはずないわよ。今彼女がいないっていうのは意外だったけど、今まで一人もいないっていうのは、私に気を遣ったのかもしれない。
 
 ああ、そうだ。思い出した。光君に勉強教えるって言ったきっかけ。
 部下の子に、今彼女いるかどうか聞いて欲しいって言われて、二人で話す口実を考えたんだっけ。
 今なんて他の子の恋路邪魔したりしてるのに、珍しい事したもんだわ。
 司令なら、こんな事簡単に聞けるんだろうけど……男の子とまともに話す事がほとんど無かった私には、これが限界。経験値が全然足りないんだもの。ゲームでいえばレベル2か3くらいしかない、絶対。
 でも、年頃の男の子自分の部屋に呼ぶなんて、よくよく考えると何してるんだろうって感じよね。
 光君は普通にしてたけど、それは私に何の魅力もないからか、それともこの組織自体女の子だらけだから、今さら女の自室に入っても、基地の中にいる延長みたいなものなのか。
 どっちにしても、ロマンスの欠片も無く時間は過ぎて……その後何度も、同じように勉強を教えても、それは変わらなかった。
 それが油断だったんだろうなあ。
 絶対に距離が変わらないって、そう確信してしまったせいで、逆に私の心は無防備になってしまったんだ……。