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オリジナル小説 -SHINE-


「……わー……」
 司令室の明美のデスクの前で、紅梨が真剣に何かを見つめている。
 心なしか頬を赤らめ、妙にきょろきょろしてもいる。周りを気にしているのだろうか。
「わわ……うわ、ええええ……!?」
 開いては閉じ、開いては閉じ、手の隙間からホラー映画を覗き見るように、おっかなびっくり何かの本を読んでいた。
「あら紅梨、私に何か用でもあったのかしらん?」
「わ……わわわーーーーーーーーーーーー!!!」
 一番警戒していたはずの明美がいつの間にか後ろにいた。紅梨は慌てて、今まで見入っていたその本を後ろ手に隠す。
「あらあら、司令室の真っ只中でエロ本読むなんて、紅梨も度胸あるわねー」
 濁り一つない澄んだソプラノでエロ本と高らかに叫び、さらに紅梨の羞恥を誘う明美。他のオペレーター達がくすくすと笑っている。
「うう、ひ、ひどいよぉ……」
 そう、紅梨はたまたま立ち寄った司令室で、明美の机の上に無造作に置かれているエロ本を発見してしまい、好奇心に勝てずにこっそり読んでいたのだった。
 ……20歳。
「え? エロ本? 光の? 光のエロ本なの? うわーー、見せて見せて!! どんなの使ってんのあいつ!?」
 姉を探しに来たのだろうか、いつの間にか司令室に来ていた煌羅が、その単語にここぞとばかりに反応して本を奪取する。
「え……本だから、使うんじゃなくて見るんじゃないの?」
 不思議そうに首を傾げる紅梨に、横目で『ふふん、そんな事も知らないなんて、お子様ね』と言わんばかりの勝ち誇った視線を送るひなたを見て、さすがの明美もちょっと目頭が熱くなってきた。
 22になってどんぐりの背比べとは。
「うっわ!! しかもこれ無修正じゃん!! 何これ、わー!」
 心なしか目を輝かせて煌羅がパラパラとページを捲る。
 大人の女性には興味がなさそうだが、自分と同年代の女の子を見つけると喉を鳴らしている。
「……え、同年代……?」
 何かひっかかってひなたが椅子を回転させる。
「気のせいよ気のせい。気のせいにしときなさい、ひな」
 煌羅と同年代……。

「それ、何なんですか司令。光君から没収したんですか?」
「ふふふ、私のものよ。やだわ、机の上に置きっぱなしだったみたい。だいたい光君からエロ本を没収するわけないでしょう。むしろ支給するわ」
「私物のエロ本を司令室に置かないで下さい!!」
 ひなたのお小言も耳を極音速でスルーする。
 真っ赤になって所在なさそうに指をつつき合わせる紅梨。そんな姉を弁護するべく、煌羅は明美に食って掛かった。エロ本を見ながら。
「ちょっと!! お姉ちゃんは司令と違って純粋で心清らかなんだからね! こんなエロ本見せてピュアな心に傷をつけないでちょーだい!!」
「ふふん、見せて……っていうのは心外ね。私はちゃんと閉じて机の上に置いておいたわ。紅梨にその気がなければ、タイトルを見て『うわっ、やべっ、エロ本だ』と躊躇してページを捲ることすらしなかったはず!! 紅梨は自ら汚れる事を望んだのよー!!!」
 説き伏せるようにビシリと煌羅に指を突きつける明美。
 いろいろ言いたい事はあるのだが、なぜか言い返せない説得力がそこにはある。
 エロ本を見ながら煌羅は悔しそうに唇を噛んだ。
「っていうか、変な表現はしないでください。特に後半」
 日曜だからといって司令室のど真ん中で叫ぶ明美を窘めるのは、やはりひなたしかいない。
 ずかずかと近づいてくると、当然のように煌羅からエロ本を没収する。名残惜しそうだ。
「もう、駄目よ、中学生がこんなもの見ちゃ」
 中学生だから見るんじゃん、とぶーたれる煌羅を放って、没収というか強奪というか、自分のデスクの引き出しに仕舞った。おそらく後で責任を持って証拠品検証を行うのだろう。
「優等生ねえ、なんちゃって非処女だけあって」
「んなっ!!!」
「なんちゃって……何?」
「ああ、ひなね―――――」
 首を傾げる紅梨に追って説明しようとする明美を、蛍直伝キーボードヌンチャクで叩きのめすひなた。
 そう。自分は司令室の倫理。道徳心。モラルなのだ。責任ある大人として、未来ある子供達をこんなくされ女の影響で非行に走らせてはいけない。
「……いい? こんなエロ本、女の子が昼間から堂々と読んでちゃいけません。ほら、お姉さんがいい本をあげるから」
 今度はデスクの引き出しから何冊かの薄い本を取り出してきて姉妹に渡すひなた。
 表紙ではなぜか、さるぐつわをされた美少年が頬を赤らめている。漫画のようだ。
「私だって、別にそういう事に興味を持つななんて野暮な事は言わないわ。ただ、学生のうちは実写よりもまずこういうものから入って、少しずつ勉強するといいわよ」
「え、ちょ、ひな、さっき私にした注意は……」
 ひなたも普通に司令室にエロ本を持ち込んでいる。
「これで何を勉強しろと……」
「うっわ、キモっ」
 5〜6ページ見て煌羅がぽい、と本を投げ捨てる。紅梨は見入ったままだが。
「あー!! 私の限定本ーーー!!」
「ちょっと!! 同性愛なんて非生産的な事お姉ちゃんに教えないでよね!!」
「あんたにだけは言われたくないわねっ!!」
 余程大事な本だったのか、埃を払いながらひなたが睨み返す。
「レズは綺麗だもん! どんだけ美形同士だって、男同士だと汚いのよ!! それに、男はレズの女の子も愛せるけど、ホモを男が愛したらそいつもホモじゃない!!」
「意味わかんないわよ!!」
「……何となく言いたい事は分かるわ。でも女の子がホモを愛してもノーマルよね」
「うん……」
 これもまたどんぐりの背比べな気がするが、男視点で見れば正論だろう。何故少女達が同意するのか。

「まあまあ、同性愛とか、年齢とか、些細なことで言い合うのはやめましょう」
 にこにこしながら葉月がやってきた。
 些細なことか、と突っ込まれているが気にしない。
「従属こそがノーマルな女性の愛です。紅梨もこういうものから入門してはどうでしょうか」
 はい、と数冊の本を手渡す。

 ・虐げられて湧く快楽 -湯水のごとく-
 ・鞭使い入門@〜B 番外編「プラス木馬」
 ・だから、縛られる 〜心も緊縛されて〜

 超ハードSM本だった。
「どこが入門よ!! 最終面って言うかそれ飛び越えて裏面行っちゃってるわよ!!」
「は、葉月ちゃん、こんなの見てるの……」
 自分の友達が若干変わっていることは自覚していたが、これはいよいよ更正させてあげないといけない所に来たのかもしれない。
「紅梨のために、刺激の少ないものを選んで持ってきたんですが……」
「「「これで!?」」」
 姉妹とひなたがユニゾンでツッコむ。
「葉月ちゃん、痛いの好きなの……? 私、縄で縛られたりするの、ちょっとやだな……」
 不謹慎にも、姉が縄で縛られて涙目になっているところを想像してしまい、喉を鳴らす煌羅。
 いけない。これはこれでありかも、などと。
 最愛の姉になんていうことを……
「これはこれでありかも……うああああ何て事!!」
「ど、どうしたの煌羅!?」
 ありかも陣地(黒)が姉妹愛(白)を塗りつぶしていく。

「私も、痛いのが別に好きなわけではないんですよ、紅梨。肉体的に痛みを突き詰めていくのはあまり好ましくないんです。ただ、精神的に虐げられるのはすごく素晴らしいことだと思います」
「し、司令、何とか言ってあげてください……さすがに司令でもこれはナシでしょう」
「え? 私は縄とか鞭とか全然ありだけど?」
「あなたキャパシティ広すぎますよ!!!」