オリジナル小説 -SHINE- |
紅梨達が爆走したその日の夜。 詩奈・友美は、またしても玲衣のアパートに集まっていた。 多分、自発的にこうしないと、夜中にまた玲衣の襲撃を受けるかもしれないと危惧したからだ。 卓を囲み、重い雰囲気の中、玲衣が口火を切る。 「ごめんね、また集まってもらって……」 「お酒出さないでね」 ここはピシャリと釘を刺しておく。 玲衣だけなら大丈夫なような気もするが、今日は特にキてそうなので、念には念を入れる。 「今日はやっぱりあれ? 光君が車に乗ってたこと?」 「バイト先のお姉さんとドライブかあ。なかなかいいシチュエーションだよね〜」 「……」 一瞬、エアコンが誤作動したのかと思った。 瞬間的に冷気が吹きすさんだのだ。 冷気というかもはや玲衣気。雪国じみた寒波が部屋に渦巻く。 「れ、玲衣、落ち着いて」 「何? 落ち着いてるわよ」 素っ気なく答える。 じゃあちょっとそのブリザード止めろ。 「見た目が中学生でも年上かあ……。車。ステータスよね、男釣る」 「うん。果てしなく男女逆な気もするけど、そうね」 みるみるボルテージが上がっていく。 やはり場所をここにして正解だった。 我を忘れて暴れられても、自室を破壊するだけなのだから。 「お酒飲まない?」 「駄目だよ! 今日は飲んじゃ駄目!!」 台所に行こうとする玲衣を制する詩奈。 亜輝の家での教訓だ。今回ばかりは、意地でも止める。 「……ところで、スポーツカーっていくらぐらいするんだろ」 「いやいやいやいやいやいや車買う気なの玲衣!?」 「っていうか免許もまだ持ってないじゃないのさーーーー!!」 「うん」 「……」 「……」 この短い返答に込められた思いは如何なるものか。 愛する者のため、無免でスポーツカーかっ飛ばすぜ、という若き過ちが生み出した覚悟と捉えても……。 「だいたい、やましいことがないならちゃんと説明すればいいのよ! 何で逃げるわけ!?」 「あれあれー、何かこの話題、前もさんざん話した気がするなあ……」 「奇遇ね。私もよ詩奈」 どれだけ潔白だろうと、自分を殺さんばかりの凄まじい形相の人間が近づいてきたら逃げるだろう。 応援する立場とはいえ、むしろあれだけ可愛い女の子が他にいながら、光が未だに玲衣のことを好きな方が信じられなかった。精神までも侵食する呪縛でも受けているのだろうか。 玲衣には、劇画調のホラー漫画がよく似合う。 「お酒……」 「駄目!」 今度は友美が止める。 不安を紛らわすために意地でもアルコールを入れようとしている。 頼むから、自分達のいないときに一人で飲ってほしい。 「…………」 二人が油断した隙に、服の中に手を入れもぞもぞ動かしたかと思うと、胸元から酒瓶を取り出し、一気に飲み始める玲衣。 「ええ!?」 「うおおおおおおおおおおいギャグかそれはーーーーーーーーーーーーーーーー!!」 「あんた達が……酒飲んじゃ駄目って言うから……隠してたのよ……飲まなきゃやってらんないわよ!!」 「友美の隣に座ってるせいで玲衣の胸が不自然に大きいことに気付かなかった……傘の正逆で線の長さが違って見える錯覚の原理と一緒だーーーーーーーーーーーーーー!!」 「自分の 超違う。 ……しかし、待て。ではいつから玲衣の胸は膨らんでいたのだ。 さらに自分の水晶体にも謝らなければいけなくなりそうなので、友美はその謎を追究することを断念する。 「ぷはあ!」 素敵な飲みっぷりだ。合いの手を入れてはいもう一杯! と言いたくなる。 ……駄目だ。やめろ。むしろもういっぱいいっぱいです。 「詩奈、水!!」 「ラジャー!!」 台所に向かおうとした詩奈を、玲衣が力づくで捕獲する。 「ギャーーーーーーース!!」 「詩奈も……飲みなさいよ……」 「酒くさーーーーーーい! そして痛い! 助けて友美ーーーーーーーーーーーー!!」 まるで洋画で、逃走の最中、一緒に走っていた友がついにモンスターに捕食されてしまったシーンを連想させる。 手にマシンガンでも持っていれば、離しやがれ、Ahーーーーーーーーーーとか叫びながら乱射することもできるのだろうが、あいにく、自分はただの女子高生だ。 そんな自分のたった一つの武器。 それは……足が速いこと。詩奈の犠牲を無駄にしないために、一刻も早く、水を持ってこなければ!! 最強究極の武装を胸に持ちながら、ちょっと的外れな自覚がたまに傷だ。 「ひんっ……ひんっ……ぷはあ、サケェ(溜息と共に)」 「ギニャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア全身の骨がバラバラにされるううううううううううううううううううううう!!」 悲痛な叫びを背に、ぎゅっと歯を噛みしめて走る。 嗚呼、友よ。 自らの命を賭して道を切り開いてくれた、かけがえのない お前の死は、絶対に無駄にしない……!! 「どこいくの友美」 「っきゃあぁ!?」 もう少しで台所と言うところで、足首を掴まれ、友美は転倒した。 危なかった。標準装備のクッションがなければ、頭を強打していたことだろう。 「いた、痛い、ちょっと痛いわよ玲衣!!」 「だからさっきから痛いって言ってるでしょおおおがああああああ」 左腕で詩奈をガッチリとホールドし、なお、自分も足首の戒めを解こうとしてもビクともしない。 体力測定の結果を思い出し、背筋が凍る。 そのままずるずると玲衣へ引き摺られていく友美。 まさしくこれも、あと僅かで脱出出来るというときに無念にもモンスターに捕獲される……よくあるワンシーンを思わせる。 「痛いーーーーーーーお酒くさいーーーーーーーー!!」 「ぷわああ! 何かが顔に押し当てられて! 窒息するーーーー! 眼鏡が割れるーーーーーーーーー!!」 「私の胸よ!!」 「あ゛ーーーーーーーーーー触角が刺さるーーーーーーーーーーーーーーーー!!」 二人を抱き竦めてビクともしない玲衣。 この光景を録画してハリウッドにでも売れば、ノーメイクで殺人鬼役をこなせる稀代の迷女優としてスカウトされることは間違いないだろう。 あらためて思う。 ……どうしてこの子と、友達になったんだっけ。 |