「努力したって、例えばどういうことをしてたんスか?」
創作のネタになりそうなのでひよりがメモ帳片手に質問する。
「いろいろ……通販で買ったり、本で読んだことを試したり……」
クローゼットを開ける。
そこには、よく分からないものが所狭しと並んでいた。
「うわああ、すごいいっぱいあるね……」
「こんだけやって駄目なら、私達の意見なんて参考になるかな……?」
むしろ、ひよりも自分の胸が少し小さいのはは気にしている。
パトリシア以外の意見は役に立つとは思えない。
「おっ、これ面白そうっスね、試していい? 岩崎さん」
掃除機の先にろうとのようなアダプタのついた、典型的なバッタモン器具。
しかし、昭和に思い描かれた未来の乗り物のように、ボディにゴチャゴチャと計器がついているデザインに興味を惹かれた。
チチデカクナールアルティメットとロゴが打ってある。マイクロバスト社製品だ。
「それ……? いいけど、結構強力だから……力の調節に気をつけて……あ、田村さん、おでこで試してみて。いきなり胸は厳しいかもしれない」
「お、おでこっすか?」
手の甲などで吸引力を試すならまだしも、おでこというのは斬新だ。
「みなみちゃん、どうしておでこなの?」
ゆたかも疑問に思っている。
「一番丈夫そうだから……怪我しないかな、と思って」
「……丈夫?」
アダプタをおでこにセットし、スイッチを入れる。
おでことアダプタの間には少し距離があったというのに、寸勁を喰らわされたような衝撃と共に、おでこに張りついた。
張りついたというより、噛み付かれたような痛み。
「イタイーーーーー!? な、何これ、弱なのにーーーーーーーーーーーーーー!!」
「だ、だから強力だって……」
それでも試運転にすぎなかったのか、つまみの位置はそのままなのに力はどんどん強くなっていく。
ブラックホールじみた凶悪な吸引力に悶絶するひより。
「ずおああああああああああああああああああ皮膚はおろか頭蓋骨、脳漿までもこそぎ落とされるうううううううううううううううううううう」
あやうくスターシップなトゥループじみたことになりかけたひよりのおでこが、すんでのところでスイッチを切られ解放された。
「……この通り、出力が強すぎて普通の人にはお勧めできない。このくらいすごいものを使っても、全然大きくならないほど深刻」
「こんなの使ってるから余計防御力特化の胸になってんじゃないっすかああああああああああああ!?」
あらためて確認しても、調整スイッチは「弱」に傾いている。
これで弱て。
強にして使ったら、うっかり月を吸い寄せて地球に激突させかねない。
「ジャア、この電気マッサージ器はどうデスカ?」
一見、肩に貼って電気で振動を与える普通のマッサージ機のようだ。
だが、本体に核のロゴのようなものが入っているのが気になる。
「……試してみる?」
イエ〜スと返事も軽やかに、すぽーんと上半身裸になるパティ。
ゆたかは顔を赤らめ、ひよりは亜音速でデッサンしていく。
とめどなく自己主張する2つの惑星の揺れを目の当たりにし、あやうくでさきほどの機械を強にして吸い付けようかと思ったが、来てもらった手前、踏みとどまった。
「……田村さんのようになると困るから、本当に、最弱で」
普通のマッサージ機なら、最弱の加減で使用してもほとんど気付けないくらいの微動だが、これもまた怪しい通販器具なので念を入れる。
だが、それでもまだ足りなかったようだ。
戦闘メカ生命体アニメのヒロインは幼い頃の方がよかったネ、と、自分の乳の育ち具合を棚に上げてパトリシアが熱弁していると、ピクリピクリと電気が流れ始めた。
震えるたびに胸もぷるんぷるん揺れ、精神衛生上よろしくない。
が、やはりその微動も、試運転に過ぎなかった。
「お、お、お?」
ビグンビグン揺れるが、やがて筋肉がつったように、徐々に上体が後ろに曲がっていく。
「チョ、コレ……糸!?」
意味不明の訴えをした直後、角度が人体構造の限界を超え始めた。
「ぐぎゃああああああああああああAAAAAAAAAAAセボネが!! セボネがあらぬ方に曲がるネ!! ドクガンテツがムガンテツになっちまったYOーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
台詞を聞く限りでは若干まだ余裕はありそうだが、実際には本当に背骨が粉々になりそうなほど強制後屈させられていたので、またもや慌ててスイッチを切る。
「すごいねみなみちゃん、こんなに頑張ってきたんだ……」
「うん……」
「こんな特訓に耐えキッタラ、セイントになれますネ!! ワタシ蟹座も割と好きデス!!」
みなみの苦悩の日々が忍ばれる。
豊胸を通り越して、世界クラスのソルジャーが誕生しそうだ。
「この錠剤は? みなみちゃん」
「――――――駄目! ゆたかは全部使っちゃ駄目! あなたには刺激が強すぎる」
病弱っ娘だけではなく、健康優良児だろうとどれも軽く絶命に足る凶悪なラインナップだが、やはり、愛だろうか。
「これは肺に過剰に空気を溜めて膨張させて、胸が大きくなるよう見せるコンセプトだった……らしい、けど。まだ試していない」
「今までのパターンからすすと、胸骨が胸を突き破るッスよ」
「じゃあ、この”ミズホ印のエルダーシリコン”は?」
「私の胸に装着した瞬間、世界の修正力が働いたように、溶解消滅した」
「岩崎さんの胸って、悪魔に呪いでもかけられてるんじゃないっスか……?」
ひよりの言葉で、沈み込んでしまうみなみ。
「あ、いや、冗談だからね!?」
「ううん、そんな気がしていた……。柊先輩の家に不法侵入して、鐘をつく撞木で胸を叩いてみたけど、腫れさえしなかった」
「……だからそういう特訓はかえって逆効果じゃあ……」
そもそも、かがみ達の実家は神社だった気がするが、気のせいだろうか。